北海道 箱根 江の島 九州 四国 玉川 目黒 田端 東京 新橋

衿を合わせながら入って来た母親は二人をつかまえて北海道の話をし始めた。いくどもいくどもお祈りの文句の様に

青い海とがけの多い箱根を見て単調に暮す海辺の生活を想って見たり、海の面には

多愛もない無智な顔をしてたわけて居るのや、箱根の山の夕方の紫のもやの中にういてあかりのチョビチョビともって居る路を駒下駄

その間にＨと千世子の一家は一緒に江の島に遊びに行ったり、たまには芝居を見に行ったり音楽をききに行ったり

「四国から九州を御へん路して歩きとうござんすねえ」

「四国から九州を御へん路して歩きとうござんすねえ」

見て居た。母親達はこないだっから問題になって居る玉川の地所の事や、持主のあこぎな事やら仲に立って居る男の半間

「大切にしなくっちゃあネ……この次の日曜には目黒あたりに行って見よう、いいでしょう？」

毎日こんな風をして居るんだからこの次の日曜に目黒に行って気分がわるくならなけりゃあ少し位つめてもいいけれ共……

その日は話のたねのつきた様に目黒行の事ばっかり云って居た。

目黒につくと千世子は一番先に降りたＨに外国の貴女の様にたすけ

だけ千世子は大好きなものずくめななりをして出かけた。田端の停車場に行く間幾度も幾度も空を見上げてＨは、

田端に下りるとすぐ千世子は、「何だかうすら寒いようですわネエ」と云っ

男はお世辞よく主人夫婦が大変まって居る事小供達が東京の話がきかれるとたのしみにして居る事なんかをかるい調子に話して

」と云って行く女の姿を見るのなんかは山の手に東京に居ては住んで居る千世子にはかなりめずらしい事でもあり又いろいろな

「あれが東京の歩きっぷりなんさ」

「東京より本が高い、ろくなものもないくせに」こんな事を道々考えて居

中をころげ廻った小供達は又源さんにつれられて東京に行った。行くまで源さんは千世子と二人っきりになりたい様なかお

東京に電話をかけすぐ一日置いた日に立つ事にきめてしまった。

「阿母さんうれしい事ネエ、私も丈夫になったし東京にも帰れる――」

新橋についてドアに手をかけた時、迎えに出た人の中に