山陰道 ニューヨーク 本郷 富士山 修善寺 静岡 東京 銀座 新橋 駒込 京橋

堅牢な家庭生活を築き上げていた。彼の郷里である山陰道の農村から、殆んど富士山も見ないようにして、まっすぐに彼の家庭へ

ではどうすることもできないような気がした。ニューヨークの摩天楼のてっぺんから、真逆様に墜落するときに感ずるでもあろうような、何

閑話休題、今村が本郷の通りを真っ直ぐに、上富士前へ出て、横町を左に折れて木戸坂

ていた。彼の郷里である山陰道の農村から、殆んど富士山も見ないようにして、まっすぐに彼の家庭へとびこんで来た細君は

ひきつづく事業の失敗のために会社を解散し、その後修善寺の新井旅館に隠棲していたが、昨夜、家人の寝しずまってから猫いら

瀬川は衣嚢から一枚の東京新聞をとりだして、「静岡版」のところをひろげて一つの記事を指し示した。「浅野社長自殺

同じように、彼女は、百姓娘の自分を人の羨む東京へつれて来て養ってくれている今村に、心からの感謝を

ている。細君は国元へひきとられて、もう二度と東京の土をふまぬようにと親戚からさとされている。これを今村が

生返事をしていた。瀬川は衣嚢から一枚の東京新聞をとりだして、「静岡版」のところをひろげて一つの記事を

夜の十時過ぎ。平生ならば、銀座通りはまだ宵のうちだ。全日本の流行の粋をそぐった男女の群

している人のように、吹雪を真正面に受けて、新橋から須田町の方角へ向かって歩いてゆく一点の人影があった。自然

しかし、十時の夜勤をすまして駒込の自宅へ徒歩で帰ろうとしている、浅野護謨会社事務員今村謹太郎は

当番の警部は、つい今しがた、京橋の浅野護謨会社の事務所で、小使が頭部を打たれて惨殺されて

よ。その頃は電車はとまっていたそうだが、京橋から君の家までは、いくら足のおそい人でも、徒歩で二時間

それから、ちょうど折悪しくその時刻にもう一つの出来事が京橋の事務所で起ったのだ。それは、小使のおやじが、火の用心