神奈川 富士山 本郷 根岸 横浜 伊勢佐木町 赤坂 渋谷 銀座 品川 東京

。幸いに娘は無事で、店の人たちと一しょに神奈川の方へ避難していることを、やっとのことでききこみましたので、

眼見て完全に綿のように征服された。はじめて富士山を見たときのような神々しさをさえ感じた。

さえだまっておれば、彼女は私だと信じないだろう。本郷の自宅で留守居をしているはずの私が桜木町行きの電車に乗って

病者のような風で、とにかく、三時間の後に、本郷の自宅まで帰ったのである。雪子と深尾みな子との面前であの紙片に

それだけでしまいになったのではない。私が、根岸の山の上にある××ホテルへタクシーで着いた時、タクシーの窓越しに

仲間の男を殺して、地震の時まで、あそこに見える根岸の刑務所にはいっていたのでございます。地震の時に、多分そのこと

の親展書がのせてあるのを発見した。消印は横浜になっていたが宛名の筆跡にはちょっと心あたりがなかった。封を切っ

芽ぐませたのである。二度目の恋の相手は、横浜の相当な貿易商の娘だということであるが、震災のために両親と

、天の下にたよるべき人のない身の上であった。横浜のサンタ・マリア女学院の出身だということであるから、今でも、同窓生

、ただ、明日――つまり今日――の正午頃に、横浜の××ホテルまで訪ねてきてほしいというだけであったが、私に

是非とも今日のうちに、妻に行き先を知らせずに横浜へ行って雪子にあってくることが必要であった。ところが私たち夫婦は

、すべての若い女に、ごく普通の身だしなみで、東京から横浜まで一度も懐中鏡を見ないような女があったら、それこそ不自然じゃない

着ていた。その洋装がまた、つい二三日前に横浜へついたばかりだということがすぐにわかるほど、しっくりと似合っていた

「ちょうど貴女と同じくらいですね。この横浜生まれの女です」

た。ところが、ふと私は、あの地震の時に、横浜では、警察でも市役所でも戸籍の原簿が焼けてしまったので、

いましたが、火がしずまるのをまってその時分、伊勢佐木町の料理屋に奉公していた娘のところへまっすぐにたずねて行きました。

、私の恋人だったのだ。当時女学校を出て、赤坂のあるアメリカ婦人の経営している寄宿舎にいて音楽を習っていた雪子

もちろん、妻が、渋谷の伯母の家へ行くといって出かけてから、もうたっぷり二十分はたっ

あいはせぬかと思って気が気でなかった。渋谷へ行ったみな子に東京駅であうはずがあるものかなどという理屈は、

いるかも知れぬ。ともかく、その当時は、彼女は、銀座の某カフェの女給をしていたのである。

電車が品川まで来たとき、万一あれがみな子なら、山の手線に乗りかえるだろうと思って

のは、すべての若い女に、ごく普通の身だしなみで、東京から横浜まで一度も懐中鏡を見ないような女があったら、それこそ

には立派な婿ができまして、二年ほど前から東京で何不自由のないくらしをしていたのでございます。ところが、

それから娘にはよく言いふくめてお嬢さまの名で東京のカフェへ奉公にやり、私は私で、別に籍をこしらえて名前