房総半島 鎌倉 横浜 東京 大久保

左手には三浦半島から房総半島の淡い輪郭が海の中に突きだしている。

「じゃ、鎌倉のＫホテルは？」

噂をたてられるでしょう。ホテルじゃ、きっとあたしのことを、横浜のチャブ屋の女か何かと思ってるでしょう。貴方の奥さんということに

のに、この女は、何か用事でもあって、東京の場末の町でも歩いているときのように無感激なのだ。

「ではいっそ東京へ行きましょうか？」

、それっきりですから。でもせっかく暖かいところへいらして、東京へ帰るんじゃ、貴方にお気の毒ですわ」

それがいちばん都合がいいんですけれど。隠れているには東京が一番いいように思いますわ。こういう狭い所だと、どうして

二人は東京行の青切符を買って、向かいあった座席を占めた。

「市外西大久保七六、島龍之介、新聞記者、三十五歳、妻道子二十八歳」