琉球 王子 成田山 青森 千葉 東京 境町 上野 日本橋 目黒

てある。後はがらんとして、ガラス越しの日光が琉球表の上に斜めにさしこみ、何処やらに男くささが漂っている。吻

いる。どこか行くところはないかしら。サイにすれば、王子のうちの婆さんではない誰かの前で抱えている新聞包をあけ

で涙を拭きながら礼をのべ、あなたがたのお仲間が成田山のお守りを持って来て下すったり、何か鉄で出来た鏡をわざわざ届け

地響を立てて青森発の長い列車が構内に入って来た。サイは体に力を入れる

だのかなりの人が溜っている。同じホームの片側から千葉の方へゆく電車が出るので混雑がひどい。

がまたこれ入れている、私末広きらいなのに……千葉の親類がこんなものをくれるんだもん」

そう云って、すこし顔を赧くした。三年会わない東京ぐらしのうちにサイは二十になり、こうして勇吉は小学校を卒業し

小倉服の肩に朝日の光を浴び、生れて初めてひろい東京の風に吹きさらされながら、一生懸命な顔をしている弟たちを見て

それから教員は短い訓示を与えた。東京の悪い誘惑にまけないで立派な産業戦士になるように。

「困難な場合がおこっても、諸君が今朝東京の土を踏みしめたこの第一歩の心持を忘れずに、どうか勇気

「東京はどうだね、まあ辛棒が大切だ。追々勝手が分りゃあ何にも心配

たような少年たちが、万を越す数で地方からこの東京へ教員に引率されて来たのだ。

それにしても、何とかしてもう三四人、東京で働きたいって娘はないもんかね。どうだ、サイちゃん、田舎の

駅の附近にちらほらしはじめた。サイは謂わば千人針の東京へ出て来て暮すようになったのだったが、赤い糸を縫いつける

この頃は、女十五人に男一人の割だとさ。東京がそうなのか、日本がならしてそうなったのか。それも、

「私もそう思ってね。そしたら、何でも東京じゅうの番地の入った地図売ってるんだってね、それを見て店

暗くなる頃にかけて、表の十二間道路の片側は東京方面からこっちへと帰って来る自転車で、一刻まるでトンボの大群がよせた

れず、そう思うと腿のあたりを震えが走った。東京へ来たばかりのあの少年たち、まだアスファルトのスリップを知らない少年たち。

がきれそうで気が気でない思いをしながら、ひろい東京のあっちの果から覚束なく響いて来る弟の声を一心にたぐりよせた。

。すると教員はちょっと体をひらくようにして、城東区境町昭和伸銅会社浅井定次さんと、横の方にかたまっている大人たちの群

のを見て、サイは何故となく伏目になった。上野の駅からこの三十四五の痩せぎすな女の疳性らしい横顔がサイ

やっぱりそうだった。勇吉を迎えに行ったあの朝、やはり上野へ着いた山形県からの小学卒業生たちが一団で撮られていて、東北

ように脚をひろげて一歩二歩三歩と前へ出た。日本橋区芳町二丁目ヤマダ合資会社藤井謹之助さん。小紋の粋な羽織に、黒レースの

「弟がこんど日本橋の方へ来たのよ」

こっちの方へついでがあったのかしら。日本橋からここまでと云えば、往復で何里になるのだろう。

いるフサイのところぐらいのものだった。フサイのいるのは目黒だし、女中をしているのであったから急に行ったところで