生まれいずる悩み / 有島武郎
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私が君に始めて会ったのは、私がまだ札幌に住んでいるころだった。私の借りた家は札幌の町はずれを流れる豊平
札幌に住んでいるころだった。私の借りた家は札幌の町はずれを流れる豊平川という川の右岸にあった。その家は堤の
変化をひき起こしていた。私は足かけ八年住み慣れた札幌――ごく手短に言っても、そこで私の上にもいろいろな出来事が
札幌での用事を済まして農場に行く前に、私は岩内にあてて君に
札幌で君が私を訪れてくれた時、君には東京に遊学すべき道
ている景色でもかく事を、せめてもの頼みにして札幌を立ち去って行ったのだろう。
いた西洋風の二階建ての雨戸が繰りあけられて、札幌のある大きなデパートメント・ストアの臨時出店が開かれようとしている。藁屑や新聞紙
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た。午後になったと思うまもなく、どんどん暮れかかる北海道の冬を知らないものには、日がいち早く蝕まれるこの気味悪いさびしさは
れてあった。私は一目見ると、それが明らかに北海道の風景である事を知った。のみならず、それは明らかにほんとうの芸術家
「北海道ハ秋モ晩クナリマシタ。野原ハ、毎日ノヨウニツメタイ風ガ吹イテイマス。
そのころ私は北海道行きを計画していたが、雑用に紛れて躊躇するうちに寒くなりかけ
遊学すべき道が絶たれていたのだった。一時北海道の西海岸で、小樽をすら凌駕してにぎやかになりそうな気勢を見せた岩内
て他人の漁場を使わなければならなくなったのと、北海道第一と言われた鰊の群来が年々減って行くために、さらぬ
にすぐ浮かび出て来るのは、なんと言ってもさびしく物すさまじい北海道の冬の光景だ。
北海道には竹がないので、竹の皮の代わりにへぎで包んだ大きな握り飯
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週間とたたない十一月の五日には、もう上野駅から青森への直行列車に乗っている私自身を見いだした。
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絶たれていたのだった。一時北海道の西海岸で、小樽をすら凌駕してにぎやかになりそうな気勢を見せた岩内港は、さしたる
小さな町にも、二三百万円の富を祖先から受け嗣いで、小樽には立派な別宅を構えてそこに妾を住まわせ、自分は東京の
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な売り声を立てる季節にはなったろう。浜には津軽や秋田へんから集まって来た旅雁のような漁夫たちが、鰊の建網の
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「東京です」
「東京? それじゃもう始まっているんじゃないか」
札幌で君が私を訪れてくれた時、君には東京に遊学すべき道が絶たれていたのだった。一時北海道の西海岸
私がそこを発って東京に帰ったのは、それから三四日後の事だった。
今は東京の冬も過ぎて、梅が咲き椿が咲くようになった。太陽の
立派な別宅を構えてそこに妾を住まわせ、自分は東京のある高等な学校をともかくも卒業して、話でもさせればそんな
君は東京の遊学時代を記念するために、だいじにとっておいた書生の言葉を
君よ! 今は東京の冬も過ぎて、梅が咲き椿が咲くようになった。太陽の