鶴見 明治座 関東 マニラ 四谷 ローマ 横浜 両国 鳥取 日本橋 東京 お茶の水 麹町 人形町 秋葉原 銀座

がある。彼女は横浜の女学校を出てから、しばらく鶴見あたりの小学校の代用教員をしてゐた。ある風の強い日のこと、

てゐる久松橋といふ小さな木の橋、その真正面に明治座があつた。病院はちやうどその明治座の横腹に対してゐるので、な

、その真正面に明治座があつた。病院はちやうどその明治座の横腹に対してゐるので、なほのこと縮こまつて見えるのだらう。

子供部屋の寝床にもぐりこんでからも、なかなか寝つけなかつた。明治座はとうにはねてゐたが、街頭にはまだ熱つぽいどよめきが鈍く渦巻い

江戸時代に金座が置かれた跡だつたからである。明治座は復興がおくれてゐたが、手狭な久松橋のたもとを引払つて

傾きもあつたかも知れない。それはとにかく、彼は明治座の筋向ひに進出を決心した。そして親類や知人たちの危惧を押し

五階建の、チョコレート色の大ビルディングが出現した。明治座が竣工したのは、それから二年ほど後のことである。

それから間もなく、あの関東の大震災である。裏手と横手から火の手があがるのを見た児玉は持前の機械的な

ビタミン研究が認められたのである。知人を介して、マニラの市立病院から招聘された。心機一転には打つてつけの申出だつた

で、子供の多い一族郎党が、ひとりの迷子も出さずに四谷の親戚の家に着いたのである。

児玉院長もしきりに気をもんでゐたが、一体そのローマの進撃は……」

は間もなく署名入りのドーチェの写真がかかつた。ローマから上原といふムッソリーニに親しい男が送つてよこしたのである。Ｋ学院の

になつたについては、面白い挿話がある。彼女は横浜の女学校を出てから、しばらく鶴見あたりの小学校の代用教員をしてゐ

家（そこに少年は母と一緒に寄寓してゐた）から、築地両国行の電車で、かなり度々この医院へ通はされた。片道たつぷり一時間はかか

た。女はそのまま信州の国もとへ帰され、志郎は鳥取の父親が引取つて行つた。少年がそんなことまでも耳にした

ところが今日は、だいぶ様子がちがふ。告別式のあつた日本橋濱町の児玉医院から、繁夫は小さな娘たちや金井と一緒に、柳澤の

して二流どころの医専を出たのだが、それが日本橋の目抜きの場所に、小粒ながらも、がつしりした地歩を固めるまでの

てゐる恰好である。これが十歳の繁夫が台湾から東京へ舞ひもどつて、はじめて児玉の門をくぐつた時の印象だつた

かつてゐた。郊外のでこぼこ道を、院長を乗せて毎日東京へ往復するのが、この柔しい男に課せられた新たな運命だつた

彼は新たな別の野心に燃えてゐたのだ。東京復興の波に乗つて胎動しはじめてゐた金座大通り開通の計画を、

神田上水がお茶の水を過ぎて、柳原河岸にかからうといふ際で、右へ分れてまつすぐ

。濱町にゐたのではわからないが、さうして麹町の家に来てみると、彼女のふとした身じろぎからも、薬の

照子は、ごく稀に、麹町の里にふらりと来ることもあつた。濱町にゐたのではわから

彼女が麹町へやつてくるのは、きまつて午すぎで、それは睡眠不足を補ふの

、お医者の妻に成りきつてしまつたのだ。あの麹町へ来るたびにする薬の臭ひ……あれなのだ。しかも、そんな機械

のことも覚えてゐない。ただそのあとで少年は、麹町の家で夜更けに目をさました時、伯母と従兄のつぎのやうな

た。少年がそんなことまでも耳にしたのは、麹町の家で夜ふけてから、伯母と従兄のひそひそ話を、襖ごしに漏れ聞い

。近所の患家からも若い連中が押しかける。そのなかに、人形町の下條といふ大きな洋品屋の娘たちもゐた。姉娘は、しなびた

もしれない。彼らはつい目と鼻の先にある人形町（もちろん灰燼に帰してはゐたが）の存在など、てんで無視して

開通の計画を、彼はじつと見つめてゐた。やがて、秋葉原からまつすぐ東南へ下つて中洲に達する大幹線が、いよいよ本ぎまりに

花柳界とをバックにして、土地の連中はあへて銀座に拮抗する繁華街をもくろんだわけである。むしろ夢みたと言つた方が