智恵子抄 / 高村光太郎
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持つて来てくれといふやうになつた。私は早速丸の内のはい原へ行つて子供が折紙につかふいろ紙を幾種か買つて送
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上を考へて見ると、その一生を要約すれば、まづ東北地方福島県二本松町の近在、漆原といふ所の酒造り長沼家に長女として明治
故障が起るのに気づき、旅行でもしたらと思つて東北地方の温泉まはりを一緒にしたが、上野駅に帰着した時は出発した
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国はみちのく、二本松のええ
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九十九里浜は千葉県銚子のさきの外川の突端から南方太東岬に至るまで、殆ど直線に近い大弓状
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に対する絶望とでめちやめちやな日々を送り、遂に北海道移住を企てたり、それにも忽ち失敗したり、どうなる事か自分でも
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そこで彫刻や油絵を盛んに勉強してゐた。一方神田淡路町に琅※洞といふ小さな美術店を創設して新興芸術の展覧会などをやつ
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た生活社の展覧会の油絵を数十枚画いた。其の頃上高地に行く人は皆島々から岩魚止を経て徳本峠を越えたもので、
徳本峠を一緒に越えて彼女を清水屋に案内した。上高地の風光に接した彼女の喜は実に大きかつた。それからは毎日私
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智恵子は富士山麓の秋の七草の花束を
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。私は穂高、明神、焼岳、霞沢、六百岳、梓川と触目を悉く画いた。彼女は其の時私の画いた自画像の一枚
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二つに裂けて傾く磐梯山の裏山は
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その望遠鏡で見ると富士山がみえた。
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私は汽車で両国から大網駅までゆく。ここからバスで今泉といふ海岸の部落迄まつ平らな水
午前に両国駅を出ると、いつも午後二三時頃此の砂丘につく。私は一週間分の薬や、菓
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人は日比谷に近く夜ごとに集ひ泣けり
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逃げたそのさきや吉祥寺
どうせ火になる吉祥寺
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さあ、又銀座で質素な飯でも喰ひませう
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智恵子は東京に空が無いといふ、
あなたのきらひな東京へ
生れ故郷の東京が
あなたのきらひな東京が
持ち始め、女子大学卒業後、郷里の父母の同意を辛うじて得て東京に留まり、太平洋絵画研究所に通学して油絵を学び、当時の新興画家で
て明治十九年に生れ、土地の高女を卒業してから東京目白の日本女子大学校家政科に入学、寮生活をつづけてゐるうちに洋画に
来なければ身体が保たないのであつた。彼女はよく東京には空が無いといつて歎いた。私の「あどけない話」といふ
とつては肉体的に既に東京が不適当の地であつた。東京の空気は彼女には常に無味乾燥でざらざらしてゐた。女子大で
知れない。さう思はれるほど彼女にとつては肉体的に既に東京が不適当の地であつた。東京の空気は彼女には常に無味乾燥
生活を想像してみると、例へば生活するのが東京でなくて郷里、或は何処かの田園であり、又配偶者が私のやう
智恵子は東京に空が無いといふ、
の要求は遂に身を終るまで変らなかつた。彼女は東京に居て此の要求をいろいろな方法で満たしてゐた。家のまはり
私自身は東京に生れて東京に育つてゐるため彼女の痛切な訴を身を以て感ずる事が出来
私自身は東京に生れて東京に育つてゐるため彼女の痛切な訴を身を以て
れた。友達ですと答へたら苦笑してゐた。当時東京の或新聞に「山上の恋」といふ見出しで上高地に於ける二人の
まで、毎週一度づつ九十九里浜の真亀納屋といふ小さな部落に東京から通つた。頭を悪くしてゐた妻を其処に住む親類の
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明治十九年に生れ、土地の高女を卒業してから東京目白の日本女子大学校家政科に入学、寮生活をつづけてゐるうちに洋画に興味
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箇月間私は信州上高地の清水屋に滞在して、その秋神田ヴヰナス倶楽部で岸田劉生君や木村荘八君等と共に開いた生活社の
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これを更年期の一時的現象と思つて、母や妹の居る九十九里浜の家に転地させ、オバホルモンなどを服用させてゐた。私は
九十九里浜の初夏
は昭和九年五月から十二月末まで、毎週一度づつ九十九里浜の真亀納屋といふ小さな部落に東京から通つた。頭を悪くして
九十九里浜は千葉県銚子のさきの外川の突端から南方太東岬に至るまで、殆ど直線
、二三の小さな漁家の屋根が点々としてゐるさきに九十九里浜の波打際が白く見え、まつ青な太平洋が土手のやうに高くつづいて際涯の
松の花粉の飛ぶ壮観を私は此の九十九里浜の初夏にはじめて見た。防風林の黒松の花が熟する頃、海から吹きよせる