江戸 葉山 鎌倉 関西 東京 隅田川 両国橋

先祖は十八大通といはれた江戸の富豪で、また風流人の家筋に当り、三月の雛祭りには昔の

れた皆三たちの父は、ただぽかんとして、葉山の別荘にひとりで暮してゐるうち、ある日海水浴をすると、急に心臓

日比野皆三博士が、学生たちを指導してゐる間、葉山の別荘に夫人の涌子は子供たちと避暑に来てゐて、土曜日毎に

やや耳に音高く響いて来て、潮煙のうちに、鎌倉の海岸線から江の島が黛のやうに霞んでゐる。

で、年上の恋人が出来、それと同棲するために、関西へ移つたまま音信不通となつた。母親の羽がひの最後の力は

それはまだ、東京の町々に井戸のある時分のことであつた。

の灯かげと玄関の瓦斯の灯かげと――この時代には東京では、電気燈はなくて瓦斯燈を使つてゐた――と

東京には、かういふ娘がひとりで蹣跚の気持ちを牽ひつつ慰み歩く場所

それはさうと、もう二三日でお盆の仕度にちよつと東京へ帰つて参らうと思ひます」

夕月を見つゝ、自分が日比野の家へ入つてから、東京の家も、土蔵だけ残して、便利で明るい現代風の建物に改築した

夏も終る頃、日比野博士一家は東京の家へ戻つて来た。またおだやかな日々が暫く経つて行つた或

やうな新興文化の気を横へてゐる。本所地先の隅田川百本杭は抜き去られて、きれいな石垣になつた。お涌は、別

燈が煌めき、涼み客の往来は絶ゆる間もない。両国橋は鉄橋になつて虹のやうな新興文化の気を横へてゐる。