巴里 東京

巴里のむす子へ

（例）巴里

巴里の北の停車場でおまえと訣れてから、もう六年目になる。人

ある。すると無暗に現実のおまえに会い度くなる。巴里が東京でないのが腹立たしくなる。

口からも、または横光利一さんの旅行文、読売の巴里特派員松尾邦之助氏の日本の美術雑誌通信でも親しく見聞きして嬉しい。健気

とだけは言った。だのに、おまえはその本場の巴里で新画壇の世界的な作家達と並んで今や一かどのことをやり

を子のおまえに依って実現さすことであり、また、巴里は絵画の本場の道場だからである。しかし、無理をして勉強せよ

私たちがおまえを巴里へ残して来たことは、おまえの父の青年画学生時代の理想を

私は、巴里から帰って来ておまえのことを話して呉れる人毎に必ず訊く、

「むすこは巴里の花形画家で、おやじや野原のへぼ絵描き……」

すると無暗に現実のおまえに会い度くなる。巴里が東京でないのが腹立たしくなる。