越年 / 岡本かの子

越年のword cloud

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堂島

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をおさえて固くなっているのを見届けてから、急いで堂島の後を追って階段を駆け降りた。

しかし堂島は既に遥か下の一階の手すりのところを滑るように降りて行くのを

二人は電車に乗った。加奈江は今日、課長室で堂島を向うに廻して言い争う自分を想像すると、いつしか身体が顫えそうに

ある整理室から男の社員達のいる大事務所の方へ堂島の出勤を度々見に行って呉れた。

「もう十時にもなるのに堂島は現われないのよ」

、整理室へ引退った。待ち受けていた明子と磯子に堂島の社を辞めたことを話すと

「堂島のいた机の辺りの人に様子を訊いて来る」と言って加奈江は

帳簿調べに忙がしかった。加奈江はその卓の間をすり抜けて堂島が嘗つて向っていた卓の前へ行った。その卓の右隣りが山岸と

卓の前へ行った。その卓の右隣りが山岸という堂島とよく連れ立って帰って行く青年だった。

加奈江はそれとなく堂島の住所を訊き出しにかかった。だが山岸は一寸解せないという顔付を

「おや、堂島の住所が知りたいのかい。こりゃ一杯、おごりものだぞ」

「そんなことはまだるいや。堂島の家へ押しかけてやろうじゃないか」

絶えず眼鼻を塞いで埃を防いだが、その隙に堂島とすれ違ってしまえば、それっきりだという惧れで直ぐにスカーフをはずして前後

人を見ないようにするのよ。するとその人が堂島じゃなかったかという気がかりになって振り返らないではいられないのよ。

明子は顔をくしゃくしゃにして加奈江に言いかけたが、堂島に似た青年が一人明子の傍をすれ違ったので周章ててその方に顔

が二人の眼をひかないではいなかった。どうも堂島らしかった。二人は泳ぐように手を前へ出してその車の後を追っ

とした感じが加わった。それらの人を分けて堂島を探す加奈江と明子は反撥のようなものを心身に受けて余計に疲れを

てないことを今更、気づいた。しかしその復讐のために堂島を探して銀座に出るなどと話したら、直に足止めを食うに決まっている

て新年を迎える家の準備にいそしんだ。来るべき新年は堂島を見つけて出来るだけの仕返しをしてやる――そういう覚悟が別に加わって

た。今まで加奈江は明子と一緒に銀座の人ごみの中で堂島を掴まえるのには和服では足手まといだというので、いつも出勤時の灰色

入りましょうか、それともこの西側の裏通りを、別に堂島なんか探すわけじゃないけれど、さっさと歩いてスエヒロの方へ行きますか」

「そら、あそこよ。暮に堂島らしい男がタクシーに乗ったところは」

「ちょいと! 堂島じゃない、あの右から二番目」

て知っているかどうかも知りたかった。そう思って堂島の後姿を見ると特に目立って額を俯向けているのも怪しかった。二人は

は半丁もじりじりして後をつけた。そのとき不意に堂島は後を振り返った。

加奈江はすかさず堂島の外套の背を握りしめて後へ引いた。明子もその上から更に外套を

明子もその上から更に外套を握って足を踏張った。堂島は周章てて顔を元に戻したが、女二人の渾身の力で喰い止められ

それのまま遁れることは出来なかった。五人の一列は堂島を底にしてV字型に折れた。

そういって堂島は加奈江たちに外套の背を掴まれたまま、連れを離れて西の横丁

小さな印刷所らしい構えの横の、人通りのないところまで来ると堂島は立止まった。離して逃げられでもしたらと用心して確っかり握りしめてつい

加奈江は涙が流れて堂島の顔も見えないほどだった。張りつめていた復讐心が既に融け始めて、

堂島は不思議と神妙に立っているきりだった。明子は加奈江の肩を頻りに

加奈江は一同に盛んに賞讃されたけれど、堂島を叩き返したあの瞬間だけの強いて自分を弾ませたときの晴々した気分は

だけで加奈江が不審に思って開いてみると意外にも堂島からであった。

にも迫った男の感情ってあるものかしらん、今にも堂島の荒々しい熱情が自分の身体に襲いかかって来るような気がした。

加奈江は堂島の手紙を明子たちに見せなかった。家に帰るとその晩一人銀座へ向っ

の表通りから裏街へ二回も廻って歩いた。しかし堂島は遂に姿を見せないで、路上には漸く一月の本性の寒風が吹き募っ

青山

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明子がそういってくれるので、加奈江は青山に家のある明子に麻布の方へ廻って貰った。しかし撲られた左

青山の明子の家に着くと、明子も急いで和服の盛装に着替えて銀座行き

品川

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だな。前々から辞める辞めると言ってたよ。どこか品川の方にいい電気会社の口があるってね」

「そうか。品川の方の社へ変ると同時に、あの方面へ引越すとは言ってた

銀座

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「親友じゃないが、銀座へ一緒に飲みに行ってね、夜遅くまで騒いで歩いたことは以前

を辞めたら一緒に出かけることも出来ないじゃないか。もっとも銀座で逢えば口ぐらいは利くだろうがね」

冗談言うな。俺だって承知しないよ。あいつはよく銀座へ出るから、見つけたら俺が代って撲り倒してやる」

の酒場でもカフェでもお客を追い出すだろう、その時分に銀座の……そうだ西側の裏通りを二、三日探して歩けば屹度あいつ

「そうお、では私、ちょいちょい銀座へ行ってみますわ。あんた告げ口なんかしては駄目よ」

師走の風が銀座通りを行き交う人々の足もとから路面の薄埃を吹き上げて来て、思わず

左右を急いで観察する。今夜も明子に来て貰って銀座を新橋の方から表通りを歩いて裏通りへと廻って行った。

薄れて来て、毎夜のように無駄に身体を疲らして銀座を歩くことなんか何だか莫迦らしくなって来たの。殊に事変下で

堂島探しどころではなかった。二人はずんずん南へ歩いて銀座七丁目の横丁まで来た。その時駐車場の後端の方に在った一

それから二人は再び堂島探しに望みをつないで暮れの銀座の夜を縫って歩いた。事変下の緊縮した歳暮はそれだけに

今更、気づいた。しかしその復讐のために堂島を探して銀座に出るなどと話したら、直に足止めを食うに決まっている――加奈江

気づいて独りで苦笑した。今まで加奈江は明子と一緒に銀座の人ごみの中で堂島を掴まえるのには和服では足手まといだという

家に着くと、明子も急いで和服の盛装に着替えて銀座行きのバスに乗った。

どうかと思って差控えてたのよ。それに松の内は銀座は早仕舞いで酒飲みなんかあまり出掛けないと思ったもんだから」

でもね、正月だし、たまにはそんな気持ちばかりでなく銀座を散歩したいと思って、それで裾模様で来たわけさ。今日は

。加奈江たちは先ず尾張町から歩き出したが、瞬く間に銀座七丁目の橋のところまで来てしまった。拍子抜けのした気持ちだった

銀座通りは既に店を閉めているところもあった。人通りも割合いに少なくて

退けて家に帰ると、ぼんやりして夜を過ごした。銀座へ出かける目標も気乗りもなかった。勿論、明子はもう誘いに来なかった

救うエゴイズムになるのでやめてしまったのです。先日、銀座で貴女に撲り返されたとき、これで貴女の気が晴れるだろうから、そこ

次の晩も、その次の晩も、十時過ぎまで銀座の表通りから裏街へ二回も廻って歩いた。しかし堂島は遂に姿

を明子たちに見せなかった。家に帰るとその晩一人銀座へ向った。次の晩も、その次の晩も、十時過ぎまで

新橋

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急いで観察する。今夜も明子に来て貰って銀座を新橋の方から表通りを歩いて裏通りへと廻って行った。

京橋

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「どうしましょう。向う側へ渡って京橋の方へ行ってオリンピックへ入りましょうか、それともこの西側の裏通りを