半七捕物帳 07 奥女中 / 岡本綺堂
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「虫の中でもきりぎりすが一番江戸らしいもんですね」と、老人は云った。「そりゃあ値段も廉いし、虫
ものかも知れませんが、松虫や鈴虫より何となく江戸らしい感じのする奴ですよ。往来をあるいていても、どこかの窓
の窓や軒できりぎりすの鳴く声をきくと、自然に江戸の夏を思い出しますね。そんなことを云うと、虫屋さんに憎まれるかも
松虫や草雲雀のたぐいは値が高いばかりで、どうも江戸らしくありませんね。当世の詞でいうと、最も平民的で、それで
。当世の詞でいうと、最も平民的で、それで江戸らしいのは、きりぎりすに限りますよ」
旅芸者でながれ渡って、二、三年前に久し振りで江戸に帰ってくると、深川の母はもう死んでいた。それでも近所
屋敷につとめている奥女中であった。主人の殿様は江戸から北の方にある領地へ帰っているが、奥方は無論に江戸屋敷に
どこの藩でも喜んだ。一種の人質となって多年江戸に住んでいることを余儀なくされた諸大名の奥方や子息たちは、
も一緒に行ったらどうだということになりました。江戸には近しい親戚も無し、自分もだんだんに年をとって来るもんですから、
が、多分まだ生きているでしょう。お俊という奴は江戸を食いつめて駿府へ流れ込んで、そこでお仕置になったとか聞いてい
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(例)銚子縮
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生きているでしょう。お俊という奴は江戸を食いつめて駿府へ流れ込んで、そこでお仕置になったとか聞いています」
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。こうなりゃあみんな白状してしまいますがね。わたくしは深川で生まれまして、おふくろは長唄の師匠をしていましたんです」
二、三年前に久し振りで江戸に帰ってくると、深川の母はもう死んでいた。それでも近所には昔の知人が
うちから男狂いをはじめて、母をさんざん泣かせた挙句に、深川の実家を飛び出して、上州から信州越後を旅芸者でながれ渡って、
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半月ばかりの避暑旅行を終って、わたしが東京へ帰って来たのは八月のまだ暑い盛りであった。ちっとばかり
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ておりまして、娘は一と足先へ帰りますと、浜町河岸の石置き場のかげから、二、三人の男が出て来まし
ような乗物に乗せられた。人通りの少ないところを選んで浜町河岸まで揺られてくると、石置き場のまえで彼女を乗物からおろして、
頃からお亀の家をたずねた。お亀の家は浜町河岸に近い路地の奥で、入口の八百屋にも薄や枝豆がたくさん積ん
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お亀は今年十七になるお蝶という娘を相手に、永代橋の際に茶店を出している。お蝶は上品な美しい娘で、すこし寡言
して、根よく探しているうちに、用人の一人が永代橋の茶店で図らずもお蝶を見つけ出した。年頃も顔かたちも丁度註文通り