出雲 伊賀 江戸 岡崎 道頓堀 大阪

ども無きが如くではないか。それを思へば、出雲は好いときに死んだ。松洛は長生きをして「妹脊山」をかく頃

ん。就きましては舊冬からお願い申して置きました伊賀の仇討でござりますが……。（云ひにくさうに又あたまを掻く）御

これより吉治が三味線をひき、染太夫が語るこゝろにて、伊賀の沼津の淨瑠璃がきこえる。）

新薄雪」は蒸返し物の上に、「加々見山」は江戸仕込みで、上方の人氣にしつくりと合はぬところがござりましたせゐ

草稿は出來上つた。（笑ひながら）八つ目は岡崎の段で、政右衞門の人形を手一杯に働かせなければならない。それ

は近郷近在からも夜の明けないうちに押掛けて來る。道頓堀の人氣はみな操りにあつまつて、歌舞伎は有れども無きが如しと

庄吉　おゝ、女中さん。道頓堀から又おなじみのおどけ者が參りました。

半二　なに、道頓堀……おゝ、庄吉どのか。

「妹脊山」が又出るといふので、わざ／＼大阪まで見物にまゐりましたが、今度もやはり大層な評判でござりました。

（その當時を追想するやうに、はれやかな眼をする）大阪中の贔屓や盛り場から贈つて來るので、芝居の前に幟は林の

見られるのが恥かしいやうな氣もするので住み馴れた大阪を立退いて、この山科に隱れてゐるのだ。おなじ山科に隱れても、

四十歳前後、竹本座の手代庄吉、三十餘歳。いづれも大阪より尋ね來たりし體にて、供の若者は、三味線と菓子折を持ちて出づ。

吉治　そこで、御病氣は……。大阪でもみな案じて居りますが……。

　おゝ、虎屋の饅頭……。それを見ると、大阪がなつかしくなる。お見舞、たしかに頂戴しました。

鶯が鳴く。こゝらは矢はり閑靜でいゝな。大阪のやうな土地に住んでゐると、なんだか苛々して氣が落ちつかない

のは、ほんにこの事でござります。どなたか書く人を大阪からお呼びなされては……。

半二　いや、その大阪にも呼んで來るほどの者がゐないのだ、なまじひの者に繼ぎ