月の夜がたり / 岡本綺堂
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もない。高輪から人力車に乗って急がせて来ると、金杉の通りで車夫は路ばたに梶棒をおろした。
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これは明治十九年のことだ。そのころ僕の家は小石川の大塚にあった。あの辺も今でこそ電車が往来して、まるで昔
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ていると、またぞっとするような目に逢わされた。湯島でみたあのばあさんがいつの間にかここにも来ているのだ
一年おくれて卒業した。それから医者になるつもりで湯島の済生学舎にはいった。そのころの済生学舎は実に盛んなもので、
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、山の手も場末のさびしい町で、人家の九分通りは江戸の遺物というありさまだから、昼でもなんだか薄暗いような、まして日
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彼はそれから芝の愛宕山へのぼった。高輪の海岸へ行った。しかも行く先々の人ごみのなかに、きっとその
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をさがしてあるいた。その頃は今と違って、東京市中にも空家はたくさんあったが、その代りに新聞広告のような便利な
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ばならない。彼も毎日尻端折りで、浅草下谷辺から本所、深川のあたりを根よく探しまわったが、どうも思うようなのは見付からない
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師匠の家は根岸だ。とてもそこまで帰る元気はないので、彼は賑やかな夜の町を
あくる朝、根岸の家へ帰ると、ここでも皆んなに笑われた。あんまり口惜しいので、
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彼はまず湯島天神の境内へ出かけて行くと、そこにも男や女や大勢の人が
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あるかなければならない。彼も毎日尻端折りで、浅草下谷辺から本所、深川のあたりを根よく探しまわったが、どうも思うような
、かれは今日もてくてくあるきで、汗をふきながら、下谷御徒町の或る横町を通ると、狭い路地の入口に「この奥にかし
を見付けてまたぞっとした。その人ごみのなかに、昼間下谷の空家で見た婆さんらしい女が立っているのだ。広い世間に
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ない。彼も毎日尻端折りで、浅草下谷辺から本所、深川のあたりを根よく探しまわったが、どうも思うようなのは見付からない。
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探しあるかなければならない。彼も毎日尻端折りで、浅草下谷辺から本所、深川のあたりを根よく探しまわったが、どうも思うよう
というのだろう。朝から大空は青々と晴れて滝野川や浅草は定めて人が出たろうと思われるうららかな日であった。梶井が息
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をさがしてあるいた。その頃は今と違って、東京市中にも空家はたくさんあったが、その代りに新聞広告のような
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かれは今日もてくてくあるきで、汗をふきながら、下谷御徒町の或る横町を通ると、狭い路地の入口に「この奥にかし家
皆んなに笑われた。あんまり口惜しいので、もう一度出直して御徒町へ行って、近所の噂を聞いてみると、かの貸家には今まで別
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彼は方角をかえて、神田から九段の方へ行くと、九段坂の上にも大勢の人が
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を一と目みると、彼はもう夢中で車から飛び降りて、新橋の方へ一目散に逃げ出した。
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明治十九年のことだ。そのころ僕の家は小石川の大塚にあった。あの辺も今でこそ電車が往来して、まるで昔と