伊豆 妙国寺 湯島 江戸 本郷 本所 追分 根岸 下谷 東京 目白 上野 千住 浅草 銀座

まい。蘇鉄が妙国寺へ行こうといい、安宅丸が伊豆へ行こうといった昔話を、今さら引合いに出すわけにもゆくまい。

へ連れて行けと言ったわけでもあるまい。蘇鉄が妙国寺へ行こうといい、安宅丸が伊豆へ行こうといった昔話を、今さら引合いに

て来た。その冷たい夜露を踏んで、ひとりの男が湯島の切通しをぬけて、本郷の大通りへ出て、かの加州の屋敷の門前に

年といえば、今から六十余年のむかしである。江戸の末期であるから、世の中はひどく騒々しい。将軍家のお膝元という江戸も頗る物騒

末期であるから、世の中はひどく騒々しい。将軍家のお膝元という江戸も頗る物騒で、押込みの強盗や辻斬りが毎晩のように続く。その八月

歳の春をむかえた。この春から夏へかけて、江戸に何事が起ったかは、改めて説明するまでもあるまい。勘次郎は老いたる

ことを知らなかった者は、出口出口をふさがれて再び江戸へ引っ返すのほかはなかった。勘次郎も逃げ路をうしなって、さらに小塚原から浅草

を踏んで、ひとりの男が湯島の切通しをぬけて、本郷の大通りへ出て、かの加州の屋敷の門前にさしかかった。

それはまずそれとして、その明くる朝、本郷の追分に近い路ばたに、ひとりの侍が腹を切って死んでいるのを

て、さらに小塚原から浅草の方へ引っ返した。それからさらに本所へまわって、自分の菩提寺にかくれた。その以後のことはこの物語に必要

それはまずそれとして、その明くる朝、本郷の追分に近い路ばたに、ひとりの侍が腹を切って死んでいるのを発見し

、勘次郎は落武者の一人として、降りしきる五月雨のなかを根岸のかたへ急いでゆくと、下谷から根岸方面の人々は軍の難を逃がれよう

「根岸の路ばたに落ちていたのだ。どういう料簡で拾って来たのか、

金兵衛はその日、下谷御成道の同商売の店から他の古道具類と一緒にかの兜を

兜は邦原家の床の間に飾られることになって、下谷の古道具屋の店にころがっているよりは少しく出世したのである。

自分もその出所を知っていないのであるから、早速下谷の道具屋へ行って聞合せて来るといって帰ったが、その翌日の夕方

「けさ下谷へ行って聞きますと、あの兜はことしの五月、なんでも雨

」と、金兵衛は顔をしかめながら話した。「善吉は下谷金杉に小さい店を持っているんですが、それが坂本二丁目の往来で

「わたくしと同商売の善吉という奴が、ゆうべ下谷の坂本の通りでやられました。」と、金兵衛は顔をしかめながら

下谷の坂本通りで善吉を斬ったのは何者であるか、このごろ流行る辻斬りで

、降りしきる五月雨のなかを根岸のかたへ急いでゆくと、下谷から根岸方面の人々は軍の難を逃がれようとして、思い思いに家財を

から邦原君の話を紹介したい。邦原君は東京の山の手に住んでいて、大正十二年の震災に居宅と家財全部を

のではない。その一家はほとんど着のみ着のままで目白の方面へ避難したのであるが、なんでも九月なかばの雨

妻と幼い娘とを知己のかたにあずけて、自分は上野の彰義隊に馳せ加わった。

上野の四方を取りまいた官軍は、三河島の口だけをあけて置いたの

お道おかねという親子が久しく住んでいたが、上野の戦いの翌年の夏、ふたりは奥の六畳の間で咽喉を突い

降っているものの、夏の日はまだなかなか暮れない。千住の宿にはおそらく官軍が屯ろしているであろう。その警戒の眼を

はなかった。勘次郎も逃げ路をうしなって、さらに小塚原から浅草の方へ引っ返した。それからさらに本所へまわって、自分の菩提寺にかくれ

かれは築地に住んでいたので、夏の宵に銀座通りを散歩すると、夜みせの古道具屋で一つの古い兜を発見