青山 満洲 横浜 宇治 静岡 水戸 麹町 東京 新宿 向島 赤羽

彼女は私の家へ来る前に青山の某軍人の家に奉公していたといった。七人の兄妹の

に、ふと満洲の蛙を思い出した。十余年前、満洲の戦地で聴いた動物の声で、私の耳の底に最も鮮かに残っ

初めてインフルエンザという病名を知って、それは仏蘭西の船から横浜に輸入されたものだという噂を聞いた。しかしその当時はインフルエンザと

の衛兵を脅かそうとしたというのである。赤羽や宇治の火薬庫事件が頭に残っている際であるから、私は一種の興味を

新聞を見ると、市川団五郎が静岡で客死したとある。団五郎という一俳優の死は、劇界に

はこれだけであった。やがて幕が明くと、団十郎は水戸黄門で舞台に現れた。その太刀持を勤めている小姓は、かの団五郎

おてつ牡丹餅は維新前から麹町の一名物であった。おてつという美人の娘が評判になっ

今この茶碗で番茶を啜っていると、江戸時代の麹町が湯気の間から蜃気楼のように朦朧と現れて来る。店の八つ手は

ます。日が暮れると寒参りの鈴の音も聞えます。麹町通りの小間物屋には今日うし紅のビラが懸けられて、キルクの草履

ことを誰も知らなかった。本人自身も心付かなかった。東京へ出て、漸次に月の重なるに随って、彼女は初めて自分の腹

彼女は男と遠ざかるために、この春のまだ寒い頃に東京へ奉公に出された。その当時既に妊娠していたことを誰も

いよいよ一般の迷信を煽って、明治二十三、四年頃の東京には「久松留守」と書いた紙札を軒に貼付けることが流行した

た。藪入などは勿論ここらの一角とは没交渉で、新宿行の電車が満員の札をかけて忙がしそうに走るのを見て、

二十四年の二月、私が叔父と一所に向島の梅屋敷へ行った、風のない暖い日であった。三囲の堤下を

て火薬庫の衛兵を脅かそうとしたというのである。赤羽や宇治の火薬庫事件が頭に残っている際であるから、私は一種