半七捕物帳 08 帯取りの池 / 岡本綺堂
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あった。併しそんな悪戯はもう時代おくれで、天保以後の江戸の世界には、相当の物種をつかって世間をさわがせて、蔭で手
行かないので、彼は幾らかの路銀を借りてふたたび江戸へ帰って来た。それはお登久が雑司ヶ谷で半七に逢った翌る晩
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長五郎というのは四谷から此の辺を縄張りにしている山の手の岡っ引である。長五郎がもう手を
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「京都の近所にも同じような故蹟があるそうですが、江戸の絵図に
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(例)市ヶ谷合羽坂
老人は万延版の江戸絵図をひろげて見せてくれた。市ヶ谷の月桂寺の西、尾州家の中屋敷の下におびとりの池と
寄らない事実が発見された。その帯の持主は、市ヶ谷合羽坂下の酒屋の裏に住んでいるおみよという美しい娘で、お
を話した。彼は千次郎といって九つの春から市ヶ谷合羽坂下の質屋に奉公していたが、無事に年季を勤めあげて、
「なに、少しお前に訊きたいことがある。もとは市ヶ谷の質屋の番頭さんをしていた千ちゃんという人が、時々ここ
を見とどけたことがないので、念のために帰途に市ヶ谷へ廻ることにした。合羽坂下へ来た頃には春の日も
「師匠の前じゃあちっと云いにくいことだが、千次郎は市ヶ谷合羽坂下の酒屋の裏にいるおみよという若い女と、近所の質屋
まって置いてやると、そりゃあ丸で嘘の皮で、市ヶ谷の女と心中しそこなったんだということを今初めて聞いた。今まで
催促されて彼はとうとう思い切って白状した。かれは市ヶ谷の質屋に奉公している時から、近所のおみよと不図云い交すよう
、彼はいろいろに宥めすかして、その日の夕方にともかくも市ヶ谷の家へ帰らせたが、なんだか不安心でもあるので、
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七日ばかりの後の夜であった。手先の松吉が神田三河町の半七の家へ威勢よく駈け込んで来た。
松吉の誘いに来るのを待って、半七は二人づれで神田を出た。きょうは三月なかばの花見日和といううららかな日で、
松吉に別れて、半七はまっすぐに神田へ帰ろうと思ったが、自分はまだ一度もその現場を見とどけたことが
末に、ふと思い付いたことがあった。彼はそのまま神田の家へ帰って、松吉のたよりを待っていると、それから五日
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「屋敷は大久保式部という千石取りで、その隠居の下屋敷は雑司ヶ谷にあるそうです」
のひたいには薄い汗がにじんだ。雑司ヶ谷へゆき着いて、大久保式部の下屋敷をたずねると、さすがは千石取りの隠居所だけに屋敷はなかなか
とおみよとが雑司ヶ谷の茶屋で逢っているところを、大久保の屋敷の者に見つけられたのであった。この前の妾はなに
死について何かの連坐を受けるのが恐ろしかった。大久保の屋敷の祟りもおそろしかった。質屋に奉公していたときの故朋輩
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袋をさげていた。小娘は笹の枝につけた住吉踊りの麦藁人形をかついでいた。
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女は内藤新宿の北裏に住んでいる杵屋お登久という師匠であった。かれは半七
それから三年の礼奉公をすませて、去年の春から新宿に小さい古着屋の店を出して、おふくろと妹と三人暮しで正直
きっとぶらぶら出て来るに違げえねえ。てめえはこれから新宿へ行って、その古着屋と師匠の家の近所を毎日見張っていろ」
師匠の家に隠れているんだ。あたりめえよ。いくら新宿をそばに控えているからといって、今どきの場末の稽古師匠が毎日
二人は新宿の北裏へ行った。
度位ずつ雑司ヶ谷の茶屋でこっそり出逢っていた。千次郎が新宿に古着屋の店を持つようになっても、二人の関係はやはり繋がっ