伊豆 江戸 本郷 赤坂 長崎 神田 品川 浅草

黒船の帆影が伊豆の海を驚かしてから、世の中は漸次にさわがしくなった。夷狄を征伐する軍用金

「冗談じゃあねえ。芝居じゃああるめえし、今どきふたり揃って江戸のまん中で仇討もねえもんだ。だが、まあいいや、かたき討

て、西国の某藩士であった。去年の春から江戸へ勤番に出て来て、麻布の屋敷内に住んでいたが、道楽者の

して、吉原や品川を遊びまわっていた。もうだんだんに江戸に馴れて来た彼等は、去年の十一月のはじめに同じ家中の神崎

はありがたき儀とお礼を申し上げて、兄の遺骨をたずさえて江戸を出発した。

助太刀を申し付けられた。但し他国へ踏み出すことはならぬ。江戸四里四方を毎日たずねあるいて、百日のあいだに仇の在所をさがし出せという

仇の神崎が果たして江戸に隠れているかどうかは疑問であったが、この厳命を受けた彼

には、自分たちの不首尾は眼に見えている。一体江戸にいるか居ないか確かに判りもしないものを、日限を切って探し出せ

た。きのうは浅草の盛り場へ行ったとか、きょうは本郷の屋敷町をまわったとか、屋敷の方へは好い加減の報告をし

半七はそれから赤坂の方へ用達に廻った。初春の賑やかな往来をあるきながらも、彼は

を放されない奴らだと半七はかんがえていた。赤坂から家へ帰って、その晩は無事に寝る。と、あくる朝のまだ薄暗い

「長崎の方で買ったんだそうで、相当の値段に引き取ってくれという

知らないと云った。しかし高島の祖父という人は久しく長崎に詰めていたことがあるから、おそらくその当時に異国人からでも手

六日年越しという日の暮れ方に、熊蔵という手先が神田三河町の半七の家へ顔を出した。熊蔵は愛宕下で湯屋を開いて

「神田の親分、お早うございます」

同じ家中の神崎郷助と茂原市郎右衛門のふたりを誘い出して、品川のある遊女屋へ遊びに行った。その席上で神崎と茂原とが酒の

は朋輩の高島弥七と特別に仲好くして、吉原や品川を遊びまわっていた。もうだんだんに江戸に馴れて来た彼等は、

遊び暮すという横着なことを考え出すようになった。きのうは浅草の盛り場へ行ったとか、きょうは本郷の屋敷町をまわったとか