慈悲心鳥 / 岡本綺堂
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日光山の慈悲心鳥――それを今さら詳しく説明する必要もあるまい。磯貝は途方
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から会津の方へ行ってみようと思っている。途中で宇都宮の友達をたずねて、それから……。」
幽霊のごとく、たとえん方もなく物凄し。宿に帰れば宇都宮の田島さんより郵便来たり、今夜からあしたにかけて泊りがけで遊びに来い
てもよく判る。こうして彼は八月十一日を宇都宮で迎えた。彼の日記のおそろしい記事はこの日から始まるのである。
人であった。森君も九日の午後の汽車で宇都宮に着いて、公園に近い田島さんの家に一泊したことは日記
田島さんというのは森君の友人で、宇都宮で新聞記者をしている人であった。森君も九日の午後
なく、なにかの意趣らしいという。この鳥打帽の男は宇都宮の折井という刑事巡査であることを後にて知りたり。
さんは忙がしそうに原稿を書き終りて、夕方の汽車で宇都宮へ帰る。予は停車場まで送って行く。帰りぎわに田島さんは予にささやき
けさは俄かに秋風立つ。午後一時ごろに六兵衛老人は宇都宮から突然に帰って来る。おどろいてきけば、殺人の嫌疑は晴れたる由
二十五日、陰。微雨。――宇都宮から田島さん来たる。磯貝殺しの犯人は、鹿沼町の某会社の職工
、雨。けさの新聞を待ちかねて手に取れば、宇都宮の新聞は一斉に筆をそろえて今度の事件を詳細に報道したり。
で大抵想像された。森君を乗せた汽車は今ごろ宇都宮に着いたかも知れない。森君の胸には旧い疵が痛み出し
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た。「や、こりゃいけない。もう三十分しかない。上野まで大急ぎだ。」
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これにて一切の秘密判明。紳士は磯貝満彦といいて、東京の某実業家の息子なる由。――
て聞かせる。兇行の嫌疑者に三種あり。第一は東京より磯貝のあとを追い来たりしものにて、彼の父は実業家とは
新聞にも詳しく掲載されてあるとの話なり。現に東京の新聞記者五、六名も田島さんと同じ汽車にて当地に入り込みたる由
再び来たる。被害者が資産家の息子だけに、この事件は東京の新聞にも詳しく掲載されてあるとの話なり。現に東京の新聞
の判断が付かず。ことに昨今は避暑客の出盛りにて、東京よりこの町に入り込みいる者おびただしければ、いちいち取調べるもなかなか困難なるべしと察せ
になって、彼はとうとうそれを受合った。育ったらば東京へ報らしてくれ、受取りの使いをよこすからと約束して、磯貝は
付かなかった。しかし慈悲心鳥の斃れたことを彼は東京へ報らせてやらなかった。磯貝の方からも催促はなかった。
薄ら寒きほどなり。当分当地に滞在する由をしたためて、東京の兄や友人らに郵書を送る。兄からは叱言が来るかも知れ
に、小せんは二階から往来をみおろして、あれは東京の磯貝という客だと教えしより、泥酔していた小牧は、
という者なり。田島さんの報告によれば、小牧は東京にて相当の生活を営みいたりしが、磯貝の父のために財産を