半七捕物帳 29 熊の死骸 / 岡本綺堂
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かこうにか混雑の火事場からだんだんに遠ざかって、本芝から金杉へ出ると、ここらは風上であるから世間もさのみ騒がしくなかった。ここ
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すると、昼の八ツ(午後二時)過ぎに、青山の権太原……今はいつの間にか権田原という字に変っている
時)を過ぎた頃でしたが、もうその頃には青山から麻布の空が一面に真紅になっていました。三田の魚籃の近所
前にもいう通り、この火事は青山の権太原から始まって、その近所一円を焼き払った上に、更に麻布へ
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、その立退き先も知れないという始末であるので、江戸の火事に馴れ切っている彼も呆気に取られた。
「それは判らねえ。江戸のまん中にむやみに熊なんぞが棲んでいる訳のものじゃあねえ。どこかの
は四郎兵衛と同国者で、かれは四郎兵衛を頼って江戸へ出て来て、その世話で近所の車湯へ住み込んだのである。その
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一円を焼き払った上に、更に麻布へ飛んで一本松から鳥居坂、六本木、竜土の辺を焼き尽して、芝の三田から二本榎、伊皿子、高輪
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火はなかなか容易に鎮まる気づかいはないと思ったので、亀戸からすぐに引っ返して来たのは夕七ツ半(午後五時)を
忽ちにそれからそれへと燃えひろがる始末。しかし初めのうちは亀戸の方でもよくは判らず、どこか山の手の方角に火事があるそう
ので、午少し前から神田三河町の家を出て、亀戸の天神様へおまいりに出かけました。そうすると、昼の八ツ(
ないのですが、弘化二年正月の二十四日、きょうは亀戸の鷽替えだというので、午少し前から神田三河町の家を出
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は亀戸の鷽替えだというので、午少し前から神田三河町の家を出て、亀戸の天神様へおまいりに出かけました。そう
勘蔵が新らしい袷を着て、干菓子の折を持って、神田三河町の半七の家へ先ごろの礼を云いに来た。
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てもしまわねえだろうが、誰が持って行ったかしら。品川辺の奴らかな」
「そうでしょうね」と、松吉もうなずいた。「品川とばかりは限らねえ。世間には慾の深けえ奴が多いから、何
までも打っちゃって置くわけにも行かないので、今度は品川から伝吉という男を呼んで来て、儲けは三人が三つ割
な顔をして帰った。六三郎もその盗人の疑いを品川の伝吉と車力の百助とにかけて、すぐに二人を詮議した
の友達の家へ連れ込もうとしたんですが、橋場と品川ではまるで方角が違うので、なんぼ世間知らずの娘でも少し変
と嘘をついて、夜ふけに娘を誘い出して、勘蔵は品川にいる自分の友達の家へ連れ込もうとしたんですが、橋場と品川
が露顕して、四郎兵衛もとうとう召し捕られましたが、品川の伝吉という奴だけはどこへか姿をかくしてしまいました。吟味
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人達だか、その名は伝わっていませんが、永代橋の落ちた時に刀を抜いて振りまわしたのと同じような手柄ですね