温泉雑記 / 岡本綺堂
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江戸時代には箱根の温泉まで行くにしても、第一日は早朝に品川を発って程
日は小田原に泊る。そうして、第三日にはじめて箱根の湯本に着く。ただしそれは足の達者な人たちの旅で、病人や
藤沢、第三日が小田原、第四日に至って初めて箱根に入り込むというのであるから、往復だけでも七、八日はかかる。
なって東海道線の汽車が開通するようになっても、先ず箱根まで行くには国府津で汽車に別れる。それから乗合いのガタ馬車にゆられて、
が今日では、一泊はおろか、日帰りでも悠々と箱根や熱海に遊んで来ることが出来るようになったのであるから、鉄道省
わたしが若いときに箱根に滞在していると、両隣ともに東京の下町の家族づれで、ほとんど毎日
御廏谷に屋敷を持っている二百石の旗本根津民次郎は箱根へ湯治に行った。根津はその前年十月二日の夜、本所の知人
ては困るというので、支配頭の許可を得て、箱根の温泉で一ヵ月ばかり療養することになったのである。旗本といって
道中は別に変ったこともなく、根津の主従は箱根の湯本、塔の沢を通り過ぎて、山の中のある温泉宿に草鞋をぬいだ
根津が箱根における化物話は、それからそれへと伝わった。本人も自慢らしく吹聴
。君たちも知っている通り、大地震の翌年に僕は箱根へ湯治に行って宿屋で怪しいことに出逢ったが、ゆうべはそれと同じ夢
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「有馬に湯あみせし時、日くれて湯桁のうちに、耳目鼻のなき痩法師
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の長岡城が西軍のために攻め落された時、根津も江戸を脱走して城方に加わっていた。落城の前日、彼は一緒に脱走
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女や老人の足の弱い連れでは、第一日が神奈川泊り、第二日が藤沢、第三日が小田原、第四日に至って
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、第一日は早朝に品川を発って程ヶ谷か戸塚に泊る、第二日は小田原に泊る。そうして、第三日にはじめて
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に行った。根津はその前年十月二日の夜、本所の知人の屋敷を訪問している際に、かのおそろしい大地震に出逢って、幸い
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十二年の後である。明治元年の七月、越後の長岡城が西軍のために攻め落された時、根津も江戸を脱走して城方に加わっ
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ば、それこそ折ふしは来り給ふ人なり。かの女尼は大阪の唐物商人伏見屋てふ家のむすめにて、しかも美人の聞えありけれども、姑の
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の温泉まで行くにしても、第一日は早朝に品川を発って程ヶ谷か戸塚に泊る、第二日は小田原に泊る。
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が若いときに箱根に滞在していると、両隣ともに東京の下町の家族づれで、ほとんど毎日のように色々の物をくれるので
浴客同士のあいだに何の親しみもないからであろう。殊に東京近傍の温泉場は一泊または日帰りの客が多く、大きい革包や行李を
であった。明治以後は次第にその建築も改まって、東京近傍にはさすがに茅葺のあとを絶ったが、明治三十年頃までの
へ行けば、こんなところがないでもないが、以前は東京近傍の温泉場も皆こんな有様であったのであるから、現在の繁華に
温泉場に近年流行するのは心中沙汰である。とりわけて、東京近傍の温泉場は交通便利の関係から、ここに二人の死場所を択ぶのが