四月馬鹿 / 織田作之助
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その男は誇張していえば「大阪で一番汚ない男」といえるかも知れない。髪の毛はむろん油気がなく、櫛
垢だよ、ケッケッケッと自虐的におもしろがったりしている。大阪で一番汚ない男だと、妙に反りかえったりしている。
むろん武田さんの体験談である。武田さんが新進作家時代、大阪を放浪していた頃の話だという。
「いつ大阪から来たの? 藤沢元気……? 大阪はどう? 『カスタニエン』
「いつ大阪から来たの? 藤沢元気……? 大阪はどう? 『カスタニエン』という店知ってる?」
「――僕が大阪にごろごろしてた時の話だが……」
そして、四五日たったある夜、私は大阪の難波の近くの夜店で、武田さんの机の上にあった時計とそっくり
武田麟太郎鰐に食われて急逝す』というデマが、大阪まで伝わって来たというのは痛快だね」
報道班員の臭みを身につけていなかった。帰途大阪へ立ち寄って、盛んに冗談口を利いてキャッキャッ笑っている武田さんは、戦争前
へ帰って間もなく、武田麟太郎失明せりという噂が大阪まで伝わって来た。これもデマだろうと、私はおもって、東京から来
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」を追い出されてからも、どこをどう飲み歩いたか、難波までフラフラと来た時は、もう夜中の三時頃だった。頭も朦朧
そして、四五日たったある夜、私は大阪の難波の近くの夜店で、武田さんの机の上にあった時計とそっくりの時計
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た人の奥さん(弥生さん)を、作者の武田さんが東京へ帰ってから訪ねて行くという話で、淡々とした筆致の中
て来た。これもデマだろうと、私はおもって、東京から来た人をつかまえてきくと、失明は嘘だが大分眼をやら
案の定東京へ帰って間もなく、武田麟太郎失明せりという噂が大阪まで伝わって
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ない。「日本三文オペラ」や「市井事」や「銀座八丁」の逞しい描写を喜ぶ読者は、「弥生さん」には失望した
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昭和十五年の五月、私が麹町の武田さんの家をはじめて訪問した時、二階の八畳の部屋
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で買ったが、武田さんのことだから二円ぐらいで神田の夜店あたりで買ったのではないかと思うとキャッキャッとうれしかった。