大阪 梅田 千日前 中之島 難波 淀屋橋 東京 日本橋

」とでも見出をつけるところだろうが、しかしこの事件は大阪のどこの新聞にも載らなかった。

新聞はその方に多くのスペースを割かねばならず、大阪の片隅に起ったそんな出来事なぞ、どうでもよかったからだ――という

はべつとして、その出来事を知っているものは、大阪中にただ一人しかいない――ということになる。

いかに深夜とはいえ、敗戦の大阪とはいえ、一糸もまとわぬ若い娘の裸の体が、いきなり自分の眼

小沢は外地から復員して、今夜やっと故郷の大阪へ帰って来たばかしだが、終戦後の都会や近郊の辻強盗の噂は

娘が言った。大阪訛だった。

「下手な東京弁を使うな。君は大阪とちがうのか」

バラケツとは大阪の人なら知っていよう。不良のことだ。

大阪の憂鬱

て帰るにしても、温泉場の夜ならともかく、白昼の大阪の町を、若い娘の寝巻姿は目立ちすぎる。それに、履物がない。

が、しかし、小沢の憂欝は同時に大阪の憂鬱ではなかろうか。

の中にある食堂へはいって行くと、ここにもまた大阪の憂鬱があった。

「大阪へ帰れば、米は食えないぞとおどかしやがったが、なんのことだ、

見たことがチグハグなのか。それとも、ネオンサインが大阪の盛り場の夜空を赤・青・紫に染めていた頃の、昔の

が、アクセントは上方のそれではなかった。どこからか大阪へ流れて来た女らしい。

弱い神経の者は気が狂ってしまう。だから、もう大阪の人々はたいていのことには驚かなくなってしまっている。

「へえ、わては大阪一の掏摸で、五寸釘の亀吉いいまんねン」

の最後の明りが築港の海に消えてしまうと、やがて大阪に夜が来た。

姿を消し、夜光虫の青白い光に憧がれる人間共が大阪の盛り場に蠢く時が来たのだ。

ガマンとは、大阪でいう刺青の方言だ。だから、刺青の針助と書いてもいいわけ

だったのよ。それが東京で焼け出されて一人で、大阪へ流れて来て……」

「――東京で焼け出され、大阪へ流れて来て……」

「――馴れぬ大阪でうろうろしているところを、親切に話しかけて来たのが、あんた、誰

名を兵古帯のお加代が、鴈治郎横丁界隈で、大阪の南の空で流星を見て、

豹吉は大阪の北の空を仰いで、同じ星が流れるのを見ながら、ふと、

どこをどう逃げたか、まんまと警官をまいてしまって、大阪の北へ現れた豹吉である。

が一杯……降るようなその星空に銀河が横たわって、大阪の一隅のこの出来事を、しずかに見下していた。

）というコッテエジ風の喫茶店兼料理店であった。終戦後大阪の町々に売出した喫茶店は、たいてい俄づくりのバラックで、荒削りのいかにもドサクサ

から、わざと頭文字だけにして置くが――Ｓ署は大阪の表玄関にある警察署である。いわば大阪の代表的な警察署だ。

――Ｓ署は大阪の表玄関にある警察署である。いわば大阪の代表的な警察署だ。

いる感じも、随分圭角がとれて来たし、まして、大阪の警察は例えば闇市場の取締り方一つくらべてみても、東京のそれより

大阪の市民のため、ひいてはこの国の社会の秩序のため――いや豹吉はじめ

小沢はがっかりして、梅田の闇市場の中にある食堂へはいって行くと、ここにもまた大阪の憂鬱

小沢十吉がたまたまはいった梅田の闇市場の食堂で、刺青をした男が唖の浮浪少女と連立って出る

読者には、もはや明瞭だろう。――梅田の闇市場の食堂から、怪しげな刺青の男に連れ出された例の唖の

「梅田の闇市や。飯を食べさせるったら、喜んでついで来よった」

梅田の食堂から刺青の男に連れられて行った娘だ。

梅田の闇市で見た刺青の男――市電の釣革にぶら下った青い腕―

ハナヤはもと千日前の弥生座の筋向いにあった店だが、焼けてしまったので、この

まで駈けつけた時、自分の到着を待っていたのは千日前の喫茶店の前で、自分を掏ろうとしたあの間抜けの掏摸一人ではなく

ら、兄貴を見たら、おれが探してる、すぐハナヤか中之島の図書館イ行くように……。いや、中之島は行ったらいかん。ハナヤへ

すぐハナヤか中之島の図書館イ行くように……。いや、中之島は行ったらいかん。ハナヤへ、ハバ、ハバ（早いとこ）行くように、

歩きまわっていたのか、豹吉は風のように難波の闇市へ現れた。

難波の闇市場の片隅では――

くたびれて、というより、豹吉の姿を見失って、難波の闇市の食堂の軒先にある職場へ戻って来た。

ておれば、雪子の空腹は増すばかりだと、小沢は淀屋橋から地下鉄に乗った。

「下手な東京弁を使うな。君は大阪とちがうのか」

出来ないくらい、コチコチの箱入娘だったのよ。それが東京で焼け出されて一人で、大阪へ流れて来て……」

なきゃ、こんな女にならなかったわよ。あたしだって、東京にいた頃は、真面目な娘だったのよ。同性愛も出来ないくらい

「――東京で焼け出され、大阪へ流れて来て……」

警察は例えば闇市場の取締り方一つくらべてみても、東京のそれよりもはるかにおとなしいというものの、それでもさすがに何か

日本橋筋一丁目を過ぎたのも知らなかった。