土曜夫人 / 織田作之助
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「君は大阪だろう」
「枕も一つだ。大阪で罹災したから、これだけだ」
大阪でバーを経営していた頃、貴子が女給たちに与えた訓戒である
たちはその意味が判らなかった。銀座式のハイカラさが大阪では受けるのだと思ったのは、まだいい方で、たいていは外国映画
貴子は大阪で経営していたバーが焼けてしまうと、一時蘆屋の山手のしもた
たちまち狙いが当って、木屋町の貸席や料亭は、すっかりこの大阪の資本に圧されてしまったのを見ると、貴子の水商売への自信は
ていたが、彼女がパトロンに選んだ姫宮銀造は、大阪の鉄屋でむろん文学などに縁のない男だった。その代り、金があっ
、一月のちには、どんな罪を犯したのか、大阪の南署から検事局の拘置所へ送られていた。チマ子は差し入れに行っ
、終戦直前のある日、鉱三崇拝者の山谷某が大阪から山荘を訪れて来て、同行の木文字章三という青年実業家を紹介し
終戦になり、政界復帰の機が熟したと見ると、大阪へ電報を打った。
家出したきり、行方不明であった。チマ子の父親は大阪の拘置所にいるゆえ、面会や差入れに大阪へ行っているのかも知れない
子の父親は大阪の拘置所にいるゆえ、面会や差入れに大阪へ行っているのかも知れないと、京吉は考えていた。
娘はうれしそうだった。アクセントは東京弁だが、大阪と京都の訛りがごっちゃにまじって、根無し草のようなこの娘の放浪を、
京都は大阪や蘆屋の妾だといわれていた。しかし、この妾は旦那の大阪
だといわれていた。しかし、この妾は旦那の大阪や蘆屋が焼けてしまうと、にわかに若がえって、無気力な古障子を張り替え、
古障子を張り替え、日本一の美人になってしまった。そして大阪や蘆屋の本妻は亭主の昔の妾を相手に、商売しなければならなく
夏子の夫は歯科医で、大阪の戎橋附近の小さなビルの一室を診療所に借りて、毎日蘆屋から通ってい
待ち合わせている先斗町の千代若という芸者が、焼け出されるまでは大阪の南地にいたというので、いろいろ大阪の戎橋附近の話をして
れるまでは大阪の南地にいたというので、いろいろ大阪の戎橋附近の話をしているうちに、ああ、あの歯医者はんなら知って
「さア、東京でどうかしら。大阪の赤玉なんか西瓜一個で五千円動かせるって話だけど。……東京じゃ、
「大阪へ帰る」
東京や大阪のバラック建ての喫茶店は、だいいち椅子そのものがゴツゴツと尻に痛く、ゆっくり腰
その男――北山正雄は大阪のある銀行の下級行員であった。商業学校の夜間部を出ると、出納
ある夜、大阪の中之島公園で拾った娘に、北山は恋心めいた情熱を感じた。ところ
――大阪は何かときびしくなったので、京都へ来て働いている。こんどの
と、やがて南側の車窓に、北野劇場のネオンサインが見え、大阪はもう夜であった。大阪駅前の広場に、闇の娘たちが夕顔の
、キョロキョロうしろをみていると、十番線のホームで大阪仕立ての東京行き急行列車の二等に乗ろうとしている三十過ぎの男の精悍
もあると、東京で囲っていた貴子に会いに、大阪から寝台車に乗っていた時のことを想い出していた。何もかも
た。今に見やがれ、あの女を見返してやると、大阪の闇市の片隅で煙草を売り、握り飯を売り、砂糖を売り、酒を売り
丁度その頃、京都駅では、二十一時に大阪を出た東京行き急行列車がホームにはいり、昼間しめし合わせた乗竹侯爵と落ち合った貴子
大阪からその汽車に乗っていた章三は、貴子たちが二等車にはいって
たが、その時間に出る東京行きの急行はこの二十一時大阪発の一本しかないと、章三は田村から大阪へ帰った足で、すぐ
二十一時大阪発の一本しかないと、章三は田村から大阪へ帰った足で、すぐ切符の手配をして、その汽車に乗り込んだの
近郊、某侯爵邸」とあったその広告を見て、大阪へ帰ると、章三は早速東京へ電話して、それが乗竹侯爵邸である
今日の夕方、京吉の財布を掏った北山を大阪の中之島公園までつけて行って、首をしめられそうになったが、拘置所
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田村の玄関をはだしのまま逃げ出して来た陽子は、三条の方へその舗道を下って行きながら、誰もついて来る気配のなかった
。その雨の中を、京吉と芳子がちょうどその頃、三条から二条へ一つ傘で歩いていたのを、むろんカラ子は知ら
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なかった。二年たって、八重子は軽い肺炎に罹り、南紀の白浜温泉に出養生した。ある日、彼が見舞いに行くと、八重子
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をたずねて来たのだった。京吉の行く麻雀屋は祇園の花見小路にあり、アパートからは近かった。
打ち明けていた。坂野の細君もどうやらそれらしかった。祇園の方に、簡単に手術してくれる医者があるらしく、紹介してやると
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前の闇の女の群の中にも見当らなかった。難波や心斎橋附近の夜の場所も空しく探したあげく、検挙されたのだろうか
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淀屋橋の方へ通り魔のように走って行きながら、娘のチマ子の顔が頭
中之島公園を抜けて、淀屋橋の北詰まで来ると、銀造は一緒に脱走して来た連中を見失ってしまっ
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北海道生れだが、案外訛りのすくない言葉で言って、またしずかに出て行った
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三条河原町から四条、京極へかけて、京都の中心(センター)で、天プラ(フライ)の不良学生たちが唄って
、グッドモーニングの銀ちゃんを利かせたが、もともと銀ちゃんは京極の盛り場では、本名の元橋で知られた相当な与太者であった。
銀ちゃんと坂野とは、坂野が京極の小屋へ出ていた頃の知り合いで、坂野が細君と結婚する時も
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「ううん。浮浪者狩りにひっ掛ったのよ。寝屋川のお寺に入れられてたんえ」
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の参詣道へ折れ、くねくねと曲って登って行くと、音羽山が真近に迫り、清閑荘というアパートが、森の中にぽつりと建って
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ごとに反撥したので、東条軍閥に睨まれて、軽井沢の山荘に蟄居し、まったく政界より没落していた。
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はその銃声を遠い想いで聴いた。中之島公園は真中を淀川が流れ、花火を連想させる。げんに二月ほど前、この公園で水都祭
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た扉を押すと、十球の全波受信機がキャッチしたサンフランシスコの放送音楽が、弦楽器の見事なアンサンブルを繊細な一本の曲線に流して
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東山のアパート清閑荘では、ヒロポン中毒のアコーディオン弾き坂野の細君が逃げ、闇の
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はだまって娘と肩を並べて円山公園を抜けると、高台寺の方へ折れて行った。
を利かずに、ついて来るのに任せて、やがて、高台寺の道を清水の参詣道へ折れ、くねくねと曲って登って行くと、音羽
高台寺の道を抜けて、円山の音楽堂の横を交番の近くまで来た時、
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窓の外は加茂の川原で、その向うに宮川町の青楼の灯がまだ眠っていなかった。
「――このお部屋、宮川町からまる見えね」
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銀造は桜橋まで来ると、曾根崎の方へ折れて闇市の中へまぎれ込み、ズックの靴を買った。財布の
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三条河原町から四条、京極へかけて、京都の中心(センター)で、天プラ(フライ)の不良学生たちが
それがアルプ・ウイスキーだった。四条のある酒場へ行くと、顔で一本八十円でわけてくれる。公定価格は
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「セントルイス」は京吉の巣であり、一日中入りびたっていることもある。京都を
ところが、セントルイスへ時々やって来て、旦那を待ち合わせている先斗町の千代若という芸者が、
だから、セントルイスへ掛ければ、京吉がつかまると、陽子が知っていることすら、すでに京吉に
はあったし、それで儲けた金を旅費にしようとセントルイスを出た途端思いついてみると、何かサバサバと気持がよかった。
の証明にもなるわけだと、警察の電話を借りてセントルイスへ電話してみた。
けたたましい笑い声は、セントルイスのマダムの夏子の癖であったが、陽子はそんなことは知らずあざ笑わ
笑い声で、セントルイスの夏子だと判った。
「――おれ判るもんか。なぜ、セントルイスへ行ったんだい」
「じゃ、そいつ、セントルイスにいるのか」
「しかし、二千すったよ。金はセントルイスで払う。銀ちゃん、一緒に来てくれよ」
京吉をひきとめた銀ちゃんの強気は、しかし、実はセントルイスで女を待たせてあるという弱みのせいであった。
でも何でも見て来たらいいだろう。三時にセントルイスで会おう。相談はそれからのことだ」
イーチャン打つことには十分食指が動いていた。が、セントルイスで待っているカラ子のこともあった。
「おれ、セントルイスへ取りに行くものがあるんだよ」
。が、だれも気づかなかった。まして、坂野の細君がセントルイスで待っていることを、知る由もない。
「ちゃっかりしてるね。払うよ。セントルイスへ行きゃア、はいるんだ。今日中に払うよ。銀ちゃん、そんなん
例えば、セントルイスには半日坐り込んでいる常連がいる。三条河原町のD堂という古本屋の主人
の主人など、自分の店に坐っている時間よりも、セントルイスの片隅に坐っている時間の方が多いのだ。
の享楽なのだ。彼はこの主義にもとづいて、毎日セントルイスでねばる。なぜなら、この店は場所柄先斗町あたりの芸者の常連が多く、それ
セントルイスはめったに満員にならない。だからといってさびれているというわけで
は満員になる喫茶店なぞ殆んどないのである。しかし、たまにセントルイスが満員になることがあっても、彼は席を譲ろうとしない。泰然
しかし、D堂の主人を除けば、その時セントルイスにいたひと達は、まるで申し合わせたように、誰かを待っていた
再びセントルイスへ戻って来たカラ子の心配そうな声をきいた時、一人の若い女
もう四時をすぎている。狭い横町にあるだけに、セントルイスの店なかは、ただでさえ早い秋の暮色が、はやひっそりと、しかし何
しない。すくなくとも、そんな顔をしている。三時セントルイスで会おうという口実でアパートを追い出されたのは、相手が自分をきらって
セントルイスから祇園荘へ電話が掛った時の、銀ちゃんの狼狽ぶりが想い出された
、例のスリが急に立ち上って、勘定を払うと、セントルイスを出て行こうとした。
でない声をあげた。あ、そうだと、京吉はセントルイスを飛び出した。カラ子もついて飛び出して来て、
せっかく祇園荘からセントルイスまで尾行して、電話で兄ちゃんを呼び出したのに、兄ちゃんはよその
戦地でならったことがある。マージャンで時間をつぶして、セントルイスへ行った。が、その娘はいつまで待っても来なかった。その娘
、その細君の芳子も、その情夫のグッドモーニングの銀ちゃんもセントルイスのマダムの夏子も、貴子の友達の露子も、素人スリの北山も、
しかし、京都へついたその足でセントルイスへ来てみると、むろん京吉はいなかった。マダムの夏子も、誰
行く四条通りを河原町通りへ折れると、カラ子の足は自然セントルイスへ向いていた。
セントルイスの戸は閉り、中は暗かった。軒下にたたずんで、カラ子はそっとその戸
なかった。暫くして、また戸をたたいた。そして、セントルイスの前をはなれて、カラ子は雨に煙る木屋町の灯の方へ歩き出した
、急に踵をかえして、しかし、トボトボとその横丁をセントルイスの軒下へ戻って来た。
けたたましい笑い声はいつもの夏子だったが、しかし、今夜のセントルイスのマダムはいつになくぐでんぐでんに酔っていた。リベラルクラブの帰りであろうか
夕方、セントルイスの前で、祇園荘へ行ってグッドモーニングの銀ちゃんに会うという芳子を、
。アパートへ帰れば、芳子がいるかも知れない。昼間セントルイスでは約束をすっぽかしたが、もう亭主の所を飛び出して来た芳子には
セントルイスの夏子も泥にまみれ、カラ子の京吉恋しさもただならぬ激しさで
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大阪行きの省線はすぐ来た。高槻で座席があいたので、ぐったりとして坐り、向い側の座席にちょこんと
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させなかった。ことに、東京の家を飛び出して、京都へ来た足でホールへはいった当座は、鉛のようにつんとし
京吉は急にわざとらしい京都訛りになって、
していたのだが、終戦と同時に、焼け残った京都という都会に眼をつけて、木屋町の廃業した料亭のあとを十五万
敗戦後の京都の、いかにも女の都、享楽の町らしい世相を見ぬいたこの敏感な
「京都へ行ったら泊めてくれ」
陽子が東京の家を逃げ出して京都へ来ているのも、実は章三という男のせいだったのだ
自分の能力を試すスリルだと、ひそかに家を出て京都へ来たのだ……。
京都へ逃げて来ていることを、一番知られたくない章三に見つかってしまっ
動機はロマンティックなものではない。実は、家出して京都で宿屋ぐらしをしているうちに、二月の金融非常措置令の発表
家の方へは行先を隠し、また京都では素姓を隠す必要上、陽子は転入証明も配給通帳もわざと持って
京都でダンサーをしているという秘密が春隆の口から洩れて父の耳
チマ子はわざとらしい京都弁で言ったが、すぐ大阪弁に戻り、
三条河原町から四条、京極へかけて、京都の中心(センター)で、天プラ(フライ)の不良学生たちが唄っている唄を、
ただでさえ頽廃の町である。ことに土曜日の京都は、沼の底に妖しく光る夜光虫の青白い光のような夜が、
そして、さまざまな女が、いかにも女の都の京都らしく、あるいは一夜妻の、そして土曜夫人として週末の一夜を明かすと
姿を見かけたいう男もいる。してみれば、やはり京都へ帰って来ているのかと、京吉はひょいと声のする方を
はうれしそうだった。アクセントは東京弁だが、大阪と京都の訛りがごっちゃにまじって、根無し草のようなこの娘の放浪を、語っ
変る京吉の心の動きは、昨日まであれほど魅力的だった京都の町々を、途端にいやらしく感じてしまった。
思って、威張ってやがらア。なんだ、こんな京都! 京都なんて隠退蔵物資みたいなもンだ。けちけちと食べずに残して置いたおかげ
なかったと思って、威張ってやがらア。なんだ、こんな京都! 京都なんて隠退蔵物資みたいなもンだ。けちけちと食べずに残して
おさらばする前に寄って行こうと思ったのは、やはり京都への未練だろうか。
の巣であり、一日中入りびたっていることもある。京都をおさらばする前に寄って行こうと思ったのは、やはり京都への
しかし「セントルイス」は京都にありながら、京都ではなかった。この店の経営者は蘆屋のマダム連中で、かつては阪神間
しかし「セントルイス」は京都にありながら、京都ではなかった。この店の経営者は蘆屋のマダム連中
京都は大阪や蘆屋の妾だといわれていた。しかし、この妾は
感じられぬのは、さすがに本妻の気品で、他の京都人経営の喫茶店を嗤っているところもあり、
「おれ京都がいやになったよ」
「電話掛ったら、おれもう京都にいねえよと、言っといてくれ」
「しかし、あの女が京都にいると判れば、こっちのもンや」
「京都には女の子つきで一晩いくらっていう宿屋があるときいてたけど、
「京都見物……? 田村で十分。焼けない都会なんていうおよそ発展性のない所
「うん。おれもう京都がいやになったんだよ。坂野さん、金ないだろう。貸しちゃくれ
ましたわ。でも、電話が掛って来たら、もう京都にいないとそう言って置いてくれって、女の子と出て行きました
陽子さん! あれからまた掛って来たのよ。もう京都にいないって言ったら、絶望的だったわよ。おほほ……」
「あんた、まだ京都にいたのね」
「パイパン……? 何よ、それ。――京都にいるなら、リベラル・クラブへ一緒に行ってよ。今晩五時、発会
をたのしむという風には出来ていないが、さすがに京都の喫茶店は土地柄からいっても悠長だ。
さが安くなるこの享楽にまさる享楽がほかにあろうか。京都人であった。
といってさびれているというわけではないのだ。京都では満員になる喫茶店なぞ殆んどないのである。しかし、たまにセントルイスが満員
この界隈も、灰色の秋風が肌寒く走ると、さすがに古い京都らしいくすんだ黄昏れ方であった。町も人もうらぶれたように風に
――大阪は何かときびしくなったので、京都へ来て働いている。こんどの日曜日、三時半に四条河原町の横町の
ことだと北山は日曜日が来ると、朝のうちにもう京都へついた。そして駅前で靴磨きに生れてはじめて靴を磨かせた。ところ
そして、女への未練と、一刻も早く京都を逃げ出したい気持を、二本の電車線路のように感じているうちに
「お、お、お前、京都から、お、お、おれをつけて来たんだろう」
娘のチマ子の顔が頭をかすめ、京都へ行こう、京都へ行ってチマ子に会おうという想いの息を、ハアーハアーと重く吸っ
て行きながら、娘のチマ子の顔が頭をかすめ、京都へ行こう、京都へ行ってチマ子に会おうという想いの息を、ハアー
を割り切って、チマ子のいる京都までの道のりは、もはや京都行きの省線が出る大阪駅までの十町でしかなかった。
ように明確に銀造の迷いを割り切って、チマ子のいる京都までの道のりは、もはや京都行きの省線が出る大阪駅までの十町でしか
「この金があれば、京都まで行ける!」
大阪駅まで来て、京都までの切符を買い、何くわぬ顔でプラットホームで並ぶと、はじめてほっとし
―あの男は東京へ行くのだな、すると今夜は京都へ行かないなと、そんなことを考えていたのだ。
京都――田村――貴子!
その体温、体臭の魅力がよみがえり、もはや銀造にとって、京都へ行く喜びは娘のチマ子に会うことよりも、貴子の顔が見
彼の傲岸な顔は、やがて来た京都行きの省線に乗った銀造の瞼にいつまでも残り、銀造はおれも
しかし、電車が京都へ着くと、銀造は駅前の人力車を拾って、田村のある木屋町へ走ら
の手紙を黙殺することは出来なかった。といって、京都には未練があった。
京都の悪友から遊びに来いと誘われて、東京を立ってから、もう一
キャバレエの話には大して乗っていないらしい。が、せっかく京都まで来て、その日のうちに東京行きの汽車に乗せてしまうという
載せた汽車が東京へ向って進行している間に、京都でもいかなる事件がいかなる人物によって進行させられているか、予測
に固くなった屍の上に降り注ぐ同じ雨が、夜更けの京都の町をさまよう哀れな人々の、孤独に濡れた心にも降り注いでいる
たのだが、今はその喜びも空しく、京吉のいる京都へトボトボ帰って来た足は、雨に濡れた心のように重かった
しかし、京都へついたその足でセントルイスへ来てみると、むろん京吉はいなかった
思えば今宵の京都の雨は、わが主人公たちをふと狂気めかせるために、降っていた
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促進運動のデモに参加することと、店へ来る客と大津へ泊りに行くことを、ちゃんと使い分けているのを、びっくりしたような
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会いに行き、その帰りは茉莉のアパートへ顔を出し、千葉の田舎から出て来た茉莉の肉親を慰めたり、葬儀の相談をし
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――そんなことは自尊心がさせなかった。ことに、東京の家を飛び出して、京都へ来た足でホールへはいった当座は、
「――僕あした東京へ行きます」
「東京へ……?」
「チマ子お友達と東京よ。芸術祭とか何とかあるんでしょう。気まぐれな子だから……
困っちゃうわと、東京弁で早口に言うと、章三は、
「ふーん。東京ならおれも行けばよかった。――いや、用事はあれへん。ただ、
円君に貸すもんか。女は佃煮にするくらいいる。東京では紅茶一杯の女もいるということやが、女の地位は上っ
陽子が東京の家を逃げ出して京都へ来ているのも、実は章三という男
章三は東京の鉱三の寄寓先へ飛んで来て、三百万円の小切手を渡すと
「東京へお行きになるんですの?」
娘はうれしそうだった。アクセントは東京弁だが、大阪と京都の訛りがごっちゃにまじって、根無し草のような
東京へ
何がははアんよ。だけど、本当……? 東京までそんなデマがひろがってたの……?」
と来ると思うがな。ママをあてにして、わざわざ東京から飛んで来たんだから……。ねえ、乗らない、この話。
なんか西瓜一個で五千円動かせるって話だけど。……東京じゃ、新円が再封鎖になったりしたら、どかんとバテちゃうんじゃない
「さア、東京でどうかしら。大阪の赤玉なんか西瓜一個で五千円動かせるって話だけど
「見くびったわね。まア一度東京を見ることね。話じゃ判らない。今夜あたしが帰る時、ママも一緒
応接間で話しているのは、貴子と、東京から来た貴子の友達であろう。やがて話声が聴えなくなった。貴子は
「東京でキャバレエやろうという話あるんだけど……」
「東京へ行くひまなんか……?」
「売邸、某侯爵邸、東京近郊……」
しかも、この偶然を陽子、春隆、貴子、貴子の友達、東京行き……などという偶然に重ねてみると、もはや章三にはその売
と負けるからね。負けたっていいが、しかし、負けるとおれ東京へ行けないからね。――坂野さん、本当に痛くないね……?
「――東京へ行く……?」
「お前、東京生れだろう……?」
「田舎へ行くより、東京の方がいいだろう。やっぱし東京へ行こう」
「田舎へ行くより、東京の方がいいだろう。やっぱし東京へ行こう」
ちょうどドアをあけて、出かけようとしているところだった。東京の雑誌社から、
でしかなく、たとえば、靴磨きの娘を連れての放浪や東京行きの思いつきも、マージャンで旅費を稼ごうという思いつきも、その相手にわざわざ
東京行きの旅費が稼げるかどうかというようなことはもう問題ではなかっ
鮮かな東京弁だった。ははあんと、京吉は上唇の裏に舌を当てて、
東京や大阪のバラック建ての喫茶店は、だいいち椅子そのものがゴツゴツと尻に痛く
をみていると、十番線のホームで大阪仕立ての東京行き急行列車の二等に乗ろうとしている三十過ぎの男の精悍な顔
「……十番線の列車は二十一時発東京行き急行であります……」
はべつのことを考えていた。――あの男は東京へ行くのだな、すると今夜は京都へ行かないなと、そんなこと
銀造はおれも昔はあんな顔だったこともあると、東京で囲っていた貴子に会いに、大阪から寝台車に乗っていた時
「ママはお留守どす。いま、東京へ立たはりました」
ホームにはいり、昼間しめし合わせた乗竹侯爵と落ち合った貴子が、東京の女友達と一緒に、二等車へ乗ろうとしていた。
丁度その頃、京都駅では、二十一時に大阪を出た東京行き急行列車がホームにはいり、昼間しめし合わせた乗竹侯爵と落ち合った貴子が、東京
時頃に立つといっていたが、その時間に出る東京行きの急行はこの二十一時大阪発の一本しかないと、章三は田村
たその広告を見て、大阪へ帰ると、章三は早速東京へ電話して、それが乗竹侯爵邸であることを調べ上げたのだ。
「売邸、東京近郊、某侯爵邸」とあったその広告を見て、大阪へ帰ると
――春隆――田村――貴子――売邸――東京行き……。
京都の悪友から遊びに来いと誘われて、東京を立ってから、もう一月以上にもなる春隆のもとへ、すぐ帰れ
へ帰るのは、何としても後味が悪い。どうせ東京へ帰らねばならぬとすれば、貴子から誘われたのはもっけの
陽子を誘惑し損ったまま東京へ帰るのは、何としても後味が悪い。どうせ東京へ帰らね
らしい。が、せっかく京都まで来て、その日のうちに東京行きの汽車に乗せてしまうという早業に成功した限り、キャバレエの話
いず、げんに新しい事件と新しい登場人物を載せた汽車が東京へ向って進行している間に、京都でもいかなる事件がいかなる人物に
「京ちゃんか……? 京ちゃん東京へ行っちゃったよ……おほほ」
口から出任せだったが、しかし、京ちゃんなんか東京へ行ってしまえという夏子の気持が、そう言わせていたの
あたしは自由、リベラルクラブよ。おほほ……。京ちゃんは東京へ行っちゃったよ」
あたいも東京へ行く――と、カラ子はさいならという声を残して、横丁を出
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たかが知れている――というのが、十五年前銀座の某サロンのナンバーワンだった頃から今日まで、永年男相手の水商売でもま
である。が、女給たちはその意味が判らなかった。銀座式のハイカラさが大阪では受けるのだと思ったのは、まだいい
うんだのはチマ子。十六年前、貴子が銀座の某サロンで働いていた頃のことだ。その頃貴子は、文士
出来るでしょう。ママ、半分出してくれたら丁度いいのよ。銀座でぱアッと派手に開店するのよ。わーっと来ると思うがな。
「何だか、銀座でいい場所らしいから、今夜行って見て来ようと思うんだけど……
あたいのお家煙草屋。あたいの学校、六代目と同じよ。銀座へ歩いて行けたわ」
「うん。こんな汚い恰好で銀座歩くのンいやだけど、兄ちゃんと一緒だったら、いいわ」
て来た。古い都のうらさびた寂けさよりも、銀座風に植民地じみた雑然とした色彩の洪水の方がむしろ最近の特徴
、感じなかった。露子はただその握り方に、自分が銀座でやろうとしているキャバレエへ貴子が出してくれる資本の額を計算し
「あたしに会いたければ、銀座のアルセーヌにいらっしゃい」