それでも私は行く / 織田作之助
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「下鴨の小郷という家から頼まれているんだが、あそこじゃ出戻り娘がいる
下鴨
宮子がそう思ったのは、実は、彼女は昔下鴨から女専へ通っていた頃、やはり同じ下鴨の下宿から三高へ通って
彼女は昔下鴨から女専へ通っていた頃、やはり同じ下鴨の下宿から三高へ通っている学生に、彼女の方から話しかけて親しくなっ
「なんだ、下鴨に下宿してるのじゃなかったのか」
てやまない鶴雄は、倦怠した生活から脱け出す血路を、下鴨の小郷の家に求めてやって来たのである。
「隠匿物資のことなんです。下鴨の小郷虎吉の家には、米三百俵、砂糖千斤隠匿されている
わざわざ下鴨へ行き、桔梗家を訪ね、そしてキャバレー歌舞伎までついて来た目的がはじめて達せ
鶴雄は思わず微笑した途端に、下鴨の小郷の女中に「明日正午べにやで待っている」という弓子への
夕方、下鴨の小郷の家で、はからずも会うた弓子の話では、小郷は細君
だから、いきなり鶴雄に身体を凭せかけて行きながら、昨夜下鴨の家で鶴雄のいる浴室の中へはいって行った態度といい、今日、
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れながら乗って来て、じっとりと汗ばんだ体に、加茂の流れを吹き渡って来た風は、さすがに気持がよかった。
春のおぼろ月の淡い光が川原の薄い夜霧を透して加茂の流れにほのかに映っていた。
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鼻の低い妓がきくと、去年の十二月、大阪の新町から先斗町へ来て「進駐さん」といわれている芸者が、
木屋町のヤトナ倶楽部にはいったのだが、京都のヤトナは大阪のヤトナと違い、お酌だけでは済まない――ということが、「
三好は大阪ではかなり知られた呉服屋の主人で、三日にあげず京阪電車で京都へ
が統制にひっ掛り、だんだんひっそくして来た矢先き、大阪の空襲で店も家も商品も焼かれて、裸一貫になってしまった。
焼けた大阪とくらべて、何という違いだろう。
かつて、京都は大阪の妾だといわれていた。大阪あっての京都であった。それ
かつて、京都は大阪の妾だといわれていた。大阪あっての京都であった。それほど、京都は古障子のように無気力で
旦那の大阪が焼けて、落ちぶれてしまうと、当然妾の京都も一緒に落ちぶれるかと思わ
気になっておれば、やがて焦土の中から起ち上ろうとする大阪の若々しい復興の力に圧されてしまって、再び大阪の妾となる日が
する大阪の若々しい復興の力に圧されてしまって、再び大阪の妾となる日が来るのだ――ということを知らなかった。
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と、屋台を出て鶴雄の方は見向きもせず、三条の方へさっさと電車通りを渡って行った。ハンドバッグも何も持たぬせいか
小野屋旅館を出た鶴雄は、木屋町通りを三条の方へ下って行きながら、呟いた。
六、サイコロを振って、西へ行き、三条の「そろばん屋」にはいったこと。
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その隙に鶴雄はさっさと路地を出て行ったが、四条の電車通りを横切って、もとの「矢尾政」今は「東華菜館」と
四条から満員の電車に押されながら乗って来て、じっとりと汗ばんだ体に
二人は毎日四条のもと交潤社という酒場のあった地下室のレッスン場へ通い出した。
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君勇が先斗町から呼ばれて行った先は、祇園の備前屋だった。
「祇園からでも先斗町の芸者はよべる……?」
こうやって新円をまいてやらんことには、先斗町も祇園も立ち行かんからな。あはは……。しかし金は使っても、品行は方正
「そうです。君勇は小郷が殺される前の晩、祇園から先斗町への帰り途で、元の旦那の三好に会うたんですよ。三好
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「ポントというのはポルトガル語で港のことだ。つまり鴨川の港という意味でつけた名だと思う」
ポンと鳴れば、やがて鴨川踊だ、三階がキャバレエ「鴨川」になっている歌舞練場では三年振りに復活する鴨川踊の稽古
桔梗家の二階――鴨川をへだてて、四条京阪のプラットホームや、南座の灯が見える部屋で、小郷
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調理場の隅に備えつけてある短波受信機から、サンフランシスコの音楽放送が甘く聴えていた。小田はしばらくその音楽をききながら、何
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「友人が北海道にいるんです。そいつを頼って牧場で働きます」
ます。どうせ、食糧難で満足に授業は受けられないし、北海道の牧場で、独学する方が気が利いています」
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変った青年でね、あの人の親父さんというのは九州の大実業家なんだが、母親が違うので、家を飛び出して、京都
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彼は京極の小屋へ明日から出演するため、今朝の汽車で東京から着くと、宿の
そして木屋町三条を上った小野屋旅館に投宿すると、すぐ京極の雑閙へまぎれ込んで行き、男の懐中をねらった。
ひどいわね、どうして知らせてくれなかったの。京極であなたの名前みて、来てらっしゃること判ったのよ。――今、お
に人間がいるのかと、思われるくらい混雑している京極や、寺町通りを横切ると、もうそこは、打って変ったようにひっそりと
出ると、やがて小郷と君勇は四条通りを歩いて、京極へ来た。
日午後二時ごろ左京区下鴨××町実業家小郷虎吉氏は京極の映画館××館の公衆電話のなかで、何者かの手で心臓部へ
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考えながら、護国神社の前から清水の方へ折れて行った。
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東山では「悲願戦災者救援同盟」の慈善鍋が出ていた。
東山の峰の上に横たわった紫色の雲の隙間から、さっと金色の光が流れ
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「高台寺だ」
高台寺
「僕たち今高台寺へ行くところだったんですよ。よかったら、あなたも一緒に行きませんか
一休庵へ行く途中、古びた低い門をくぐると左手に高台寺の見える細長いさびた道がいかにも京都らしいしずけさの中に伸びてい
ごらん。螢が飛ぶよ。京都じゃ、木屋町の螢と、高台寺の螢だね」
てる感じだ。おっとりして上品で、ふてぶてしさがない。高台寺のこの辺のような、なごやかな美しさを持っているのが、結局京都
「高台寺の方へ散歩しました」
このノートによると、弓子はあなたと梶鶴雄と一緒に高台寺の方を散歩していたが、途中で一人さきに帰っていますね
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先斗町と書いて、ぽんと町と読むことは、京都に遊んだ人なら誰でも知っていよう。
忘れないで下さい。これらの気の毒な同胞を、幸福な京都の人々よ、一刻も早く救ってあげようではありませんか」
「――焼け残った幸福な花の都の京都の人々にお願いします。この美しい京の都にも、春にそむい
寄附しか集らないのか。だから、京都はけちくさい、京都の人間は冷たいと言われるんだ」
て、千円の寄附しか集らないのか。だから、京都はけちくさい、京都の人間は冷たいと言われるんだ」
因んだ赤提灯が、いかにも助かりましたという感じで、京都らしくぶら下っている。
ちかごろ京都の町々に急にふえて来た京趣味、茶室風のしるこ屋の一
と、大阪弁と京都弁をチャンポンに使って言った。
頼る所といっては、京都の叔父の家しかない。弓子は姉の千枝子と二人で、西田町の叔父
ときいて、木屋町のヤトナ倶楽部にはいったのだが、京都のヤトナは大阪のヤトナと違い、お酌だけでは済まない――と
取らねば、金がはいらぬのだ。いくら京都が女の都であるとはいえ、モラトリアム措置以来、さすがに木屋町の遊興
行く』という妙な題で、小説を書くので、京都へ来てるんだが、どうやらそれに先斗町が出て来るらしいんだ
「――梶君、小田君はこんど京都の新聞に『それでも私は行く』という妙な題で、小説
。人物も実在の人間を出すし、事件の背景も、京都の実在の場所をいろいろ使ってみようと思うんだ。例えば、僕が君
んだが、母親が違うので、家を飛び出して、京都へ来て放浪していたんだよ」
れて男女の風紀がみだれて来るようになると、そんな京都の変り方に強い反感を抱きながらも、内心ひそかに享楽を求めるように
桑山は東京から京都までの汽車の中で即製のサノサ節を四十も作ったという男で
「やっぱし京都はええなア」
知られた呉服屋の主人で、三日にあげず京阪電車で京都へ来ると、先斗町の君の家で君勇と会っていたのだ
これが京都なのだ、今日の京都だ。
これが京都なのだ、今日の京都だ。
終戦後の京都にいち早く出来た新しい設備は、キャバレーだ。そしていくつかのキャバレーのうち代表的
いた。大阪あっての京都であった。それほど、京都は古障子のように無気力であった。
大阪の妾だといわれていた。大阪あっての京都であった。それほど、京都は古障子のように無気力であった。
かつて、京都は大阪の妾だといわれていた。大阪あっての京都であっ
ところが、今や古障子の紙は新しくはりかえられて、京都は生々とよみがえっている。
落ちぶれるかと思われたのに、旦那と別れた妾の京都は今は以前にもまして美くしく若返り、日本一の美人になってしまっ
旦那の大阪が焼けて、落ちぶれてしまうと、当然妾の京都も一緒に落ちぶれるかと思われたのに、旦那と別れた妾の京都
、焼けなかったことが京都の幸福であると同時に、京都の不幸であることを知らず、ひたすら羨しがっていた。
三好は、焼けなかったことが京都の幸福であると同時に、京都の不幸であることを知らず、ひたすら
焼けなかった京都が、その幸福に甘んじていい気になっておれば、やがて焦土の中
は、打って変ったようにひっそりと静まりかえって、いかにも京都らしい家並みが続く蛸薬師通りである。
やがるんだ。奴さん、女房の家を追い出されて、京都へ流れて来てるらしいね。とにかく呆れたよ。――君、はいる
「君、散歩しないか。京都で一番いい散歩道を教えてやろう」
「そう。男から……。京都中で一番いやらしい男からよ」
くぐると左手に高台寺の見える細長いさびた道がいかにも京都らしいしずけさの中に伸びていた。
の夜、この道を歩いてごらん。螢が飛ぶよ。京都じゃ、木屋町の螢と、高台寺の螢だね」
「――やはり京都はいいね」
「京都の文化はどうですか」
「京都の文化……?」
人は京都の文化、京都の文化といっているが、京都という井戸の中で蛙が鳴いている感じで、日本の文化――
てはだめだね、京都の文化人は京都の文化、京都の文化といっているが、京都という井戸の中で蛙が鳴いて
美術工芸を除いてはだめだね、京都の文化人は京都の文化、京都の文化といっているが、京都という井戸の中で
「京都の文化なんて美術工芸を除いてはだめだね、京都の文化人は京都の文化、京都の文化といっているが、京都と
「京都の文化なんて美術工芸を除いてはだめだね、京都の文化人は京都
ような、なごやかな美しさを持っているのが、結局京都の不幸かも知れんよ。本当に仕事をしようという人間の住むところ
と、文化感覚が十年おくれてるね。執筆者にしたって京都の中だけでものをいってる感じだ。おっとりして上品で、ふてぶてしさ
だと云われているが、雑誌一つ見ても、京都から出ている雑誌は、一二の例外はあるけれど、東京の雑誌にくらべる
「京都は文化都市だと云われているが、雑誌一つ見ても、京都
、けちで、臆病で……、失敬、失敬、君は京都の人だったね」
「――結局、京都ってところは、プチブル的なんだね。自己保存の本能だけ強くって、
小田はさんざん京都の悪口を言ってからあわてて鶴雄にあやまった。
そして、花見小路に最近出来た「京都プルニエ」で食事を済ませて、勘定を払おうとすると、財布がない
「先斗町と書いてポント町と読むことは京都の人なら誰でも知っていようが、しかしなぜ先斗町――四条大橋の
「いや、いいんです。それに僕はもう京都にいませんから」
「それに、京都という土地がつくづくいやになりました」
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実は、桑山竹夫が今日仙台からやって来たので、その歓迎の意味もあり、島野の招待で
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は京極の小屋へ明日から出演するため、今朝の汽車で東京から着くと、宿の番頭からこの店のことをきいて、早速やって
両親はなく、二つ違いの姉の千枝子と二人で、東京に住んでいた。
――弓子は東京生れ、両親はなく、二つ違いの姉の千枝子と二人で、東京に
宮子が結婚する頃には、その学生は東京の大学へはいっていたので、既にどちらからともなく関係が切れ
桑山は東京から京都までの汽車の中で即製のサノサ節を四十も作ったという
小田ははすっぱな東京弁を使った。
室町のお能に出る東京の能役者たちが泊っているのであろう、階下の間から、物憂い鼓の
京都から出ている雑誌は、一二の例外はあるけれど、東京の雑誌にくらべると、文化感覚が十年おくれてるね。執筆者にしたって