峠に関する二、三の考察 / 柳田国男
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その山たるや大抵春は躑躅山桜の咲く山で、決してアルネの故郷の如く越え難き雪の高嶺ではない。山の彼方の平野と海
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「たをり」という方では大隅の福山から日向の都城へ越える小山、今は馬車の走る国道であるが、その頂上の民居を通山
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、備前邑久郡裳樹村大字五助谷字通り山、美濃恵那郡静波村大字野志字通り沢、越後南蒲原郡大崎村大字下保田字通坂、常陸那珂郡勝田村大字
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をただの屏風にし終り、甘楽の奥の処々の米蔵、佐久の馬の脊につけた三升入の酒樽を悉く閑却したのである
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の人が江戸に出で三峰へ参詣するのには、決して軽井沢へ廻らなかったのみならず、山脈の西と東と丸々種類のちがった産物
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存するのみならず、普通名詞としても生きている。鎌倉の武士大多和三郎は三浦の一族で、今の相州三浦郡武山村大字太田和はその
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、海岸部の方が表口、肥後山鹿の奥岳間村から筑後の矢部へ越える冬野の山道は、複雑していたが肥後の方が表
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神に手向をするのは必ずしも山頂とは限らぬ。逢坂山は山城の京の境、奈良坂は大和の京の境であるから、道饗
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道、その南に大日向等である。岩村田以南の人が江戸に出で三峰へ参詣するのには、決して軽井沢へ廻らなかったのみならず、
産物、例えば信州の米と酒、上州の麻に煙草、江戸から来る雑貨類を互に交易するためには、少しも中山道を利用しなかっ
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路が古道でないとすればむだになるが、相模の佐野川村から武蔵の元八王寺村へ越える案外峠は、案外にも武蔵が表で相模
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から来る雑貨類を互に交易するためには、少しも中山道を利用しなかったものが、鉄道は乃ち国境の山脈をただの屏風にし終り
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峠の字と同じく和製の新字である。内海を渡って四国に入れば、「たを」とは言わずに「とう」と呼ぶけれども
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の相州三浦郡武山村大字太田和はその名字の地である。伊賀の八田から大和へ越える大多和越、その他この地名は東国にも多く、西
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が表口、肥後山鹿の奥岳間村から筑後の矢部へ越える冬野の山道は、複雑していたが肥後の方が表だったと記憶する
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通り山、美濃恵那郡静波村大字野志字通り沢、越後南蒲原郡大崎村大字下保田字通坂、常陸那珂郡勝田村大字三反田字道理山等も皆