白い道 / 徳永直
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チャップリンひげをうごかして長野がわらった。長野は大阪からながれてきた男で、専売局工場の電機修繕工をしている。三吉
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いると、長野がいつもの大阪弁まじりで、秋にある、熊本市の市会議員選挙のことをしゃべっている。深水はからだをのりだすようにして、
せまい熊本市で、三吉も「喰いつめた」一人であった。新聞社でストライキに加わって解雇
とめにみえる。田圃と山にかこまれて、樹木の多い熊本市は、ほこりをあびてうすよごれてみえた。裁判所の赤煉瓦も、避雷針のある
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ていった。三吉の母親たちは、まだ東京のことを江戸といった。
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(例)熊本煙草
鉄の門があった。鉄の門の内側は広大な熊本煙草専売局工場の構内がみえ、時計台のある中央の建物へつづく砂利道は、
てから、長屋のはしっこの家のかど口に「日本友愛会熊本支部事務所」とかいた、あたりには不似合な、大きな看板のある
、専売局工場の電機修繕工をしている。三吉たちの熊本印刷工組合とはべつに、一専売局を中心に友愛会支部をつくって
五高等学校の連中がやること等であった。しかし同じ新人会熊本支部員である長野も深水も、この用件にあまり興味をもたなかった。
やるため、印刷工組合と友愛会支部とで出来ている熊本労働組合連合会の役員たちが宣伝をうけもつこと、高島の接待は第五高等学校の
自分で印刷工場も経営している。一方では憲政会熊本支部にもひそかに出入している男であるが、小野、津田、三吉
いってしもうしなァ。きみのような有能な人物が、熊本にとどまって、ぜひガンばってくれんことにゃ――」
美くしい気がした。そしてこの竹びしゃく作りなら、熊本の警察がいくら朝晩にやってこようと、くびになる怖れがなかった。
へきて、岩の上にひざを抱いてすわると、熊本市街が一とめにみえる。田圃と山にかこまれて、樹木の多い熊本市
新報の植字部に入っていた。小野のほかに、熊本出の仲間であるTや、Nや、Kやも、東京のあちこちの
文芸欄を舞台にして、彼の独特な文章は、熊本の歌つくりやトルストイアンどもをふるえあがらせた。五尺たらずで、胃病もち
年の米暴動の年に、津田や三吉をひきいて「熊本文芸思想青年会」を独自に起した、地方には珍らしい人物であった
になると、そのうち小野がだしぬけに“ハーイ”と、熊本弁独特のアクセントでひっぱりながらいう。
そうやって、いらいらしていると、たいくつな、うすよごれた熊本市街の風景も、永くはみていられなかった。
まぁ、わしのいうことをきくがええ、しかしだナ、熊本あたりの労働者というもんは、そんな七むずかしいことはわからんたい。ああ、
、三吉は三吉で、もう今夜の演説会で、「新人会熊本支部」もおしまいだ、などと考えているのだった。
からきて、明日は鹿児島へゆき、数日後はまた熊本へもどって、古藤たちの学校で講演するというこの男は、無口で
ことは沢山あった。自分が竹びしゃく作りであること、熊本ではもう雇ってくれてがないこと、それから自分の理想、ヨゼフ・
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尺縁で、長野と深水が焼酎をのんでいた。長野は、赤い組長マークのついた菜葉服の上被を、そばの朝顔の
路地にひらいた三尺縁で、長野と深水が焼酎をのんでいた。長野は、赤い組長マークのついた
チャップリンひげをうごかして長野がわらった。長野は大阪からながれてきた男で、専売局工場の電機修繕工をして
チャップリンひげをうごかして長野がわらった。長野は大阪からながれてきた男で、専売局工場の電機
やること等であった。しかし同じ新人会熊本支部員である長野も深水も、この用件にあまり興味をもたなかった。第一に高島が
長野がコップをつきつけた。女房に子供もあるがチャップリンひげと、ながいあごを
、足首までしろくなったじぶんの足下をみていると、長野がいつもの大阪弁まじりで、秋にある、熊本市の市会議員選挙のことをしゃべっ
印刷工組合に小野鉄次郎がいたころは、彼にしろ長野にしろ、こんなに露骨にはいわない筈であった。
こんどは長野が三吉をのぞきこんだ。高坂はやはり印刷工組合の幹部で、自分で印刷
と、長野は酔ったふりでいった。長野も高坂も「女郎派」といわれていた。そして、この名前を
と、長野は酔ったふりでいった。長野も高坂も「女郎派」といわれ
長野がながいあごをしゃくってみせると、深水は気がついたふうに、こんど
三吉はそういったが、長野が垣ねから上被をとって肩にひっかけ、
組合のことには手をださなかった。ことに高坂や長野は、学生たちを子供あつかいにした。彼らは三吉らより五つ
高坂でも、長野でも、この小男の「ホホン」には真ッ赤にさせられ、キリキリ
しかし、つりがねマントの学生たちは、長野や高坂と同じではなかった。“中央集権”是か非か。“ブルジョア
ている長野は、一とめみてたち上りもしなかった。長野は演説するとき、かならず菜ッ葉服を着るが、そのときは興ざめた
はだけ、両手を椅子の背中へたらしたかっこうにこしかけている長野は、一とめみてたち上りもしなかった。長野は演説するとき、かならず
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の小野は東京へ出奔したし、いま一人の津田は福岡のゴロ新聞社にころがりこんで、ちかごろは袴をはいて歩いているという噂
、「フム」と、三吉の方だけみつめている。夕方福岡からきて、明日は鹿児島へゆき、数日後はまた熊本へもどって
ある夕方、深水がきて、高島が福岡へ発つから、今夜送別会をやるといいにきて、
送別会にもでなかった高島が、福岡へ発ってしまってから、三吉は母親にそういった。
が、勿論賛成ではなかった。しかし三吉は、高島を福岡へおっかけよう、そこで紹介状をもらって、ボルの東京へゆこう、それだけを
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。前座には深水と高坂がしゃべった。浪花ぶし語りみたい仙台平の袴をつけた深水の演説のつぎに、チョッキの胸に金ぐさりを
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の方だけみつめている。夕方福岡からきて、明日は鹿児島へゆき、数日後はまた熊本へもどって、古藤たちの学校で講演
高島が鹿児島へ発った翌日の夕方、三吉は例のように熊本城の石垣にそうて
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バカにされてしまう。――用件というのは、東京の「前衛」社から高島貞喜がくるという通知を受けとったこと、
に逢ったときも、心配してござらっしゃった。三吉が東京へゆくと申しますが、あれに出てゆかれたらあとが困りますなんて
、雇ってくれるところがなくなっていた。仲間の小野は東京へ出奔したし、いま一人の津田は福岡のゴロ新聞社にころがりこんで、
「そりゃな、東京の金はとれやすいかも知らんが、入りやすい金は出やすいもんだ
倅の室の隅においている小さい本箱と、ちかごろときどき東京からくる手紙がいちばん気になるのであった。
「東京へゆこうか?」
出の仲間であるTや、Nや、Kやも、東京のあちこちの印刷工場にはたらいていた。そして「時事にはいれるようにする
封筒の手紙も、気がすすまないのである。小野は東京で時事新報の植字部に入っていた。小野のほかに、熊本出
的であるかぎり一致することが出来ていた。ところが東京から「ボル」がいちはやく五高の学生に流れこんでくると、裂けめがおこっ
ことのない三吉は、東京を知らないけれど、それまでの東京からはまだ大学生の田門武雄や、卒業して間がない三輪寿蔵や、
―このうすよごれた町からほとんど出たことのない三吉は、東京を知らないけれど、それまでの東京からはまだ大学生の田門武雄や、卒業
小野の上京以来、東京の空が急にせまくなった気がしている。――このうすよごれた
じゃないですよ。げ、げ、現実ですよ。東、東京の労働者……。ア、ア、アナ、アナルコサンジカリズムなんか……」
じっさい、この「東京前衛社派遣」の弁士は貧弱だった。小さいのでテーブルからやっと首だけ
「――きみ、一度東京へ出てみたらいいな」
したボル理論を体得させようというのだろう。小野が東京へでてハッキリとアナーキストとして活動しはじめ、故郷へその影響を及ぼし
ハンチングをかぶったボルは、三吉に新しい魅力であった。東京大森の前衛社! 赤い旗の前衛社! それはどういうところだろう?
東京! 小野にさえぎられた東京に、もひとつの東京が、ポカリとあいたような気がする。ハンチングをかぶったボルは、
東京! 小野にさえぎられた東京に、もひとつの東京が、ポカリとあいたような気がする。
東京! 小野にさえぎられた東京に、もひとつの東京が、ポカリと
東京弁をまじえて、笑いもせずにいっている。そのあいての顔から
「おれ、東京へゆく」
高島を福岡へおっかけよう、そこで紹介状をもらって、ボルの東京へゆこう、それだけを心のなかにきめていた――。
妹をゆすりあげていった。三吉の母親たちは、まだ東京のことを江戸といった。
ただひとつの道しるべだったけれど、小野たちとはべつな東京で、すぐ明日からも働き場所をめっけて、故郷に仕送りしなければなら