冬枯れ / 徳永直
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この南九州の熊本市まで、東京から慌ただしく帰省してきた左翼作家鷲尾和吉は、三日も経つ
この辺は熊本市も一等端っこの町はずれで、肥汲み馬車と、在から出てくる百姓
の亭主が手弁当で日給一円、鷲尾の末弟の虎吉が熊本市の郊外電車の少年車掌で日給七拾銭、末の妹と父親の内職が
、微かに幼顔が憶い出せたが、――六七年前、熊本市の市電争議の指導者だった当時の彼の風貌がどこにあるだろうか……
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のような連絡船が動き出すと、もうすぐ向うに、下関のながいホームや暗い建物が見え出した。潮流の激しい海峡は黒い波の逆
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「消費組合デー」をやったとき、鷲尾も参加した芝浦の工場街で「原価販売」の売場の場景だった。赤ン坊をおぶったある
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出来ていて、そこからこの農業都市の、樹木の多い熊本市街がひとめに展らけていた。
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この南九州の熊本市まで、東京から慌ただしく帰省してきた左翼作家鷲尾和吉は、三日も経つともう
買入所」が出来たこと等を話す。それは鷲尾が東京で知ってるそれよりも、もっと単純で明瞭にあらわれているのだった。
「大体、東京のガキは生意気じゃ……」
そンな癖、妹と口喧嘩するときは、きまって、俺ァ東京さん行ってしまう――と怒鳴るのだった。妹と父親はよく鷲尾夫婦
――東京ではいくらかボカして考えていた「ふるさと」もこうやってみると
彼は東京のH大学の文科にいたころから、演劇サークル員だったが、二
ことを口数少く語って、あとは黙ってしまう。鷲尾が東京の同じような模様を話しても、それに肯くでもなく、もッと
「それにネお父っつぁン、なかなか老人は東京に居つかないんだよ」
田舎の兄弟が死んでしまったために、年老った両親を東京へひきとったが、眼のうすい父親も、耳の遠くなった母親も、
。田舎が何とかしてるうちぁ貧乏人の年寄ァ東京に来ない、ホンとだよお父っつぁん――」
「実際、そんなこたァ東京の工場町じゃザラなんだ。田舎が何とかしてるうちぁ貧乏人
「若い者ァ東京だってすぐ育つ、プロレタリアになれるからなんだ。けれど骨の髄まで百姓の
ように慌てて帰ってくる。この南九州の特徴で、東京のように寒くはなかったが、大陸的な気候の変化が激しかった。
食客みたいにツンツンされるンだもの、たとえ乞食したってまだ東京の方がいいわ」
「ぬしゃァ、東京へ行っとるげなが? ふゥン、あっちア景気アよかどだい
内儀さんはしょッちゅうそッちに行っていることや東京にも……ちゅウのがあるかとか、そんな話をし
「ぬしゃァ東京で何ばしとるか?」
鷲尾は急に東京へ帰りたくなった。もう呼吸が塞りそうで、たった一ン日もい
たてたプランも今日は跡方もなく見失ってしまう。あたふたと東京から逃げ戻ってきて、いまはまた時計の振子のように、何の解決
「ボク癒ったら、東京へ帰るんだねェ」
…それはたしか、郷里の田圃のようでもあれば、東京郊外のNあたりの原ッぱでもある景色だった。夕方のように暗くて
上の男の子が退院すると、すぐ鷲尾一家は東京へ出発した。混んでいる三等車の片隅に女房や子供達を腰掛
この連絡駅は、いつも刺々しく緊張していた。東京行の列車がはるか向うに見えて三四丁もあるホームには、見送りの
「東、東京です」
「東京は何処だネ、職業は?」