日の果て / 梅崎春生
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た。比島戦局に充てるため内地では航空機二千余機を東北地方に既に集結したと言う噂を、兵たちは半ば信じ半ばうたがっていた
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宇治の属する旅団は初め呂宋北端のアパリにいた。比島作戦に於ける米軍上陸
の斜面に、丁度腰かけたように見える細長い建物の入口を宇治は入って行った。此の部隊の医務室である。中に入ると中央に
あの家が花田の宿舎であったのか、それは宇治はとうとう知らず終いであった。誰にも言わず誰にも聞かなかった
の流れる音もした。道幅は四五尺程である。宇治が先に立ち、高城はあとにつづいた。
、まのあたりに見た此の光景は、ある予感を伴って、宇治に堪え難く重くかぶさって来た。宇治はもとの部屋に戻って来ると柱
に間違い無ければ、――その時はまもなく追手が宇治に追い付くだろう。
小屋の陰から高城が出て来た。宇治も物憂く立ち上った。立ち上りながら訊ねた。
した事を考えているのかと思った。その後宇治の隊から兵が四五名盆地に糧秣求めに行った時ゲリラに襲われ、皆
薄くなり、草山が見えて来た。何の確信もなく宇治はあるいた。
草山の裾を廻ると、貧弱なニッパ屋根が四五軒宇治の視野に入って来た。あの一軒に花田がいるのだと思った
のが男のかんにさわるらしかった。床をすざって宇治から離れながら、急にぞんざいな調子になった。
背筋に粟の立つような嫌悪感が宇治を襲った。それに堪えながら彼は後にさがり、入口の処まで出て
垂らした脚を引き上げて、男はきらきら光る瞳をまっすぐに宇治にそそいだ。張った顎のあたりが何か酷薄な感じで宇治に迫って
そそいだ。張った顎のあたりが何か酷薄な感じで宇治に迫って来た。
宇治は愕然として立ちすくみ斜面へ二三歩よろめいた。道は土手の上まで来
が、風がごうごうと鳴りながら川瀬の音にまじった。宇治は土手の鼻に立ち、その景観を展望しながら、歯ぎしりしたくなるような
にあふれた叫びであった。そしてよろよろと小屋を離れ、宇治の方に近づいた。
幸福そうだった花田の姿が、今は冷たく息絶えて宇治の背後に横たわっている。土手の斜面に横たわる花田の死骸の恰好を、その
いた。堤の上に登り切った高城の姿が、宇治の茫然とした視野の端を影絵のように動いて、拳銃を女に
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に微弱であった。米軍は文字通り枯葉を捲く勢でマニラに迫った。アパリ上陸の公算は既に此の頃から薄れ始めていたのである
あの難行軍をつづけてサンホセに入ったとき、南口付近はマニラから逃げて来た海軍部隊が駐屯していた。宇治は高熱のため当
「マニラからでさ。海軍さんと一緒に命からがら逃げて来たんだ」
マニラから逃げて来たと言うからには、在留邦人の一人かも知れない。