碓氷峠 軽井沢 東京

は成るべく東京へ近づいて行きたかつた。汽車は碓氷峠へと差しかゝつてゐた。

て、それから又途中どこかへ寄らう。何んなところか軽井沢へおりて見ようかしら。」

軽井沢へ行く汽車の時間と道筋を調べなどしてから、二人は其処を立つた

患者のやうな融の遊意を刺戟した。彼は軽井沢までの切符を買つてゐたけれど、未だ一度もおりて見たことの

へかけて、毎年そこの別荘に立籠ることになつてゐる軽井沢から、二三日中帰りしてゐた。そして連りに其の避暑地気分を称讃

「軽井沢から伊香保へ行くと、まるで貧民窟へ来たやうですの。問題になりません

Ａ―温泉で見たＭ―の俳句から、夫婦きりで軽井沢における愛と芸術の幸福な彼の生活を想見して、何かしら羨望

夜の軽井沢へ二人はおりた。暗いステイシヨン前には出迎への提灯の灯に照

「ホテルは為方がないでせうが、軽井沢では一体にさう云ふ気分がないことはないんですよ。僕が子供に

飛んだ。最近自殺した若いＡ氏の芸術批評から、軽井沢へ来る女歌人のうわさや、それらの歌の批評などへも繋がつて

は郷里に庭を作つてゐると言ふぢやないか。軽井沢がひどく気に入つた訳だね。」

安い別荘があるのよ。私も勧められましたの。軽井沢がすつかり気に入つちやつたから。買はうかと思つてるんですけれど。先生

今年は殊に万遍なく暑さの続いた夏の半以上を東京で過した融は、愛子同伴で、次男の養子問題についての用件

外なかつた。子供達を海岸へやつてある関係から、東京を長く離れることは許されなかつた。

「でも寂しさうだつたわ。今に東京へ出てくるでせう。先生のお子さん方には、先生の家より

さうは言つても、彼は成るべく東京へ近づいて行きたかつた。汽車は碓氷峠へと差しかゝつ

「先生もいらしたら何うです、私なんか東京にゐるよりかかゝらないんです。」