あらくれ / 徳田秋声
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王子の町近く来た時分には、もう日が高く昇っていた。そこに
王子の停車場へついたのは、もう晩方であったが、お島は引摺られ
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おとらはそう言って、博多と琥珀の昼夜帯の間から紙入を取出すと、多分のお賽銭をお島の
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のか解らないような小野田は、にやにやしながら呟いた。名古屋の方で、二十歳頃まで年季を入れていたこの男は、もう三十に
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ところから、狭苦しい三畳にもいられなかった二人が、根津の方へ店を張ることになってからも、外の活動に一層の興味
根津へ引越して来てからも、小野田に妾を周旋するということを言出し
その家は、不断は眠っているような静かな根津の通りであったが、今は毎日会場からの楽隊の響が聞えたり、
に張るべき硝子を、お島が小野田に言われて、根津に家を持ったときから顔を知られている或硝子屋へ懸けあいに
らをがたぴし言わせて、着替などをしていた。根津の家を引払う前に、田舎へ還してしまった父親の毎日々々飲みつづけ
お島はそう言って、根津にいた頃近所の上さんに勧められて、小野田が時々逢ったことの
が、田舎ではまだ物珍しがられる蓄音器などをさげて、根津の店が失敗したおりに逐返したきりになっている、父親を悦ば
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いる人や俥の群に交って歩いていったが、本所や浅草辺の場末から出て来たらしい男女のなかには、美しく装った
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毎日のように呼出されて、市内の芝居や寄席、鎌倉や江の島までも見物して一緒に浮々しい日を送っていた山の連中
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を覗きに来た人達も、やっと席に落着いて、銚子を運ぶ女の姿が、一時忙しく往来していた。
で行った。精米所の主人の前には、直に銚子がつけられて、上さんがお酌をしはじめた。
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店でも実直に働き、得意先まわりにも経験を積み、北海道の製造場にも二年弱もいて、職人と一緒に起臥して来
ている、確な人に委せて、監督させてある北海道の方へも、東京での販路拡張の手隙には、年に一度くらいは
なってから、鶴さんは或日急に思立ったように北海道の方へ旅立つことになった。気の早い鶴さんは、晩にそれを
荒い夏の風にやけて、鶴さんが北海道の旅から帰って来たのは、それから二月半も経ってからで
たが、それから程なく、鶴さんの留守の間に北海道から入って来た数通の手紙の一つが、旅で馴染になった
「面白くでもない。北海道の女のお自惚なんぞ言って」
それに鶴さんは、着物や半衿や、香水なんか、ちょいちょい北海道へ送るんだそうだよ。島ちゃん確りしないと駄目だよ」姉は
たおゆうの目顔が、まだ目についていた。北海道の女よりも、稚馴染のおゆうの方に、暗い多くの疑がかかっ
北海道の女の方のそれはそれとして、以前から関係のあった下谷の
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も、昔しの記憶は浮ばなかった。大宮だとか高崎だとかいうような、大きなステーションへ入るごとに、彼女は窓から首を
彼女には、どこも初めてのように印象が新しかった。高崎では、そこから岐れて伊香保へでも行くらしい男女の楽しい旅の明い姿
横ぎって、汽車はいつしか山へさしかかっていた。高崎あたりでは日光のみえていた梅雨時の空が、山へ入るにつれて
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最後に本郷の方を一二軒猟って、そこでも全く失望した二人が、疲れた
本郷の通りの方で、第四番目にお島たちが取着いて行った家
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横浜に店を出している知合いの女唐服屋で、お島が工面した金
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も知れないような或女に出来た子供――のいる四谷の方へもお島は顔出しをしなければならないように言われてい
「何のかのと言っちゃ、四谷のお袋が大分持っていったからね」鶴さんは心からそのお袋を好か
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「どうしたか。多分大阪あたりにいるでしょう。そんな古い口は、もう疾のむかしに忘れっちゃったんで
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休めるために、木蔭に飢えかつえた哀れな放浪者のように、湯島天神の境内へ慕い寄って来たのは、もうその日の暮方であった。
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た前の上さんの生きているうちから、ちょいちょい逢っていた下谷の方の女と、鶴さんが時々媾曳していることが、店の
方のそれはそれとして、以前から関係のあった下谷の女の方へ、一層熱中して来た鶴さんは、店のもの
高くなっていた。お島はおゆうの口から、下谷の女を家へ入れる入れぬで、苦労している彼の噂をおりおり
お島が下谷の方に独身で暮している、父親の従姉にあたる伯母のところに、
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、おかなが知合をたよって、着のみ着のままで千葉の方へ落ちて行くことになった頃には、壮太郎もすっかり零落れはて
いた兄が、情婦に死訣れて、最近にいた千葉の方から帰って来ていた。一時生家へ還っていた嫁も
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のあるのを頼りに、方々捜しあるいた末に、或松山へ登って行った浜屋と父親との目に、猟師に追詰められた兎
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、自分をどう思っているかをも知らなかったが、深川の方に勤め口が見つかってから、毎朝はやく、詰襟の洋服を着て、
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や俥の群に交って歩いていったが、本所や浅草辺の場末から出て来たらしい男女のなかには、美しく装った令嬢
した。お島はお花と俥で上野の方から浅草へ出て往った。そして観音さまへお詣りをしたり、花屋敷へ入っ
お茶屋であったが、お島はお花と一緒に、浅草へ遊びにやって貰ったりした。お島はお花と俥で上野
お島に話して聞かせたりした。子供をつれて浅草へ遊びに行ったとき、子供が荷物に突当ったところから、天秤棒を
、二日三日逗留している間に、お島は浅草や芝居や寄席へ一緒に遊びに行ったり、上野近くに取っていた
のようになった顧客先の細君連と、芝居へ入ったり浅草辺をぶらついたりして調子づいていたが、それもまたぱったり火の
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。田圃に薄寒い風が吹いて、野末のここ彼処に、千住あたりの工場の煙が重く棚引いていた。疲れたお島の心は
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になった或女に産れた子供であったので、東京にも知合が多く、都会のことは能く知っているが、今の良人
の娘であったおとらは、その父親が若いおりに東京で懇意になった或女に産れた子供であったので、東京に
とらは時とすると、若い青柳の細君をつれだして、東京へ遊びに行くこともあったが、内気らしい細君は、誘わるるままに
の縁づいている家などがあった。それらは皆な東京のごちゃごちゃした下町の方であった。そして誰も好い暮しをして
湯から上がって来ると、おとらは東京からこてこて持って来た海苔や塩煎餅のようなものを、明の下
時々青柳の弟のことなどを、ぼんやり考えていた。東京の学校で、機械の方をやっていたその弟と、お島は
ていたり、嫂が三つになる子供と一緒に、東京にあるその実家へ引取られていたりした。父親の助けになる男
「私二三年東京で働いてみようかしら」お島は何か働き効のある仕事に働いて
。その中には着物の着こなしなどの、きりりとした東京ものも居た。
に委せて、監督させてある北海道の方へも、東京での販路拡張の手隙には、年に一度くらいは行ってみなければ
てからであった。暑い盛りの八月も過ぎて、東京の空には、朝晩にもう秋めかした風が吹きはじめていた。
ていくといっているから、それを踏台にして、東京へ出ましょうかって。ねえ、ちょいとお安くないじゃないの」
お爺さんが、鉱山が売れたら、その女を落籍して東京へつれていくといっているから、それを踏台にして、東京へ
手紙にこんな事まで書いてあるんだってさ。これも東京の人で、彼方へ往く度に札びら切って、大尽風をふかしている
は寂しい停車場に、三度も四度も駐った。東京の居周に見なれている町よりも美しい町が、自然の威圧に
土地に暮すのだと思うと、今まで憎み怨んでいた東京の人達さえ懐しく思われた。
小さい町に、囲われていたことは、お島も東京を立つ前から聴されていた。女がまだ商売をしている
丁寧にお辞儀をした。柱の状挿には、主に東京から入って来る手紙や電報が、夥しく挿まれてあった。米屋町の旦那
湯をもらいに行って、囲炉裏縁へ上り込んで、娘に東京の話をして聞かせたり、立込んで来る客の前へ出たりし
仕送っている魚河岸の問屋の旦那が、仕切を取りに、東京からやって来て、二日も三日も、新建の奥座敷に飲
馴染であった、おかなと云うその女が、まだ東京で商売に出ている時分、兄は女の名前を腕に鏤つけなど
かなは、痩ぎすな躯の小い女であったが、東京では立行かなくなって、T――町へ来てからは、体も
来ると、晩方には大抵帰って行ったが、旦那が東京へ用達などに出るおりには、二晩も三晩も帰らないことが
精米所では、東京風の品のいい上さんが、家に引込きりで、浜屋の後家に
した格子造の家であった。家のなかには、東京風の箪笥や長火鉢もきちんとしていた。
東京の自宅の方へ、時々無心の手紙などを書いていた壮太郎が、
一緒に東京へ出る相談などが、二人のあいだに持上ったが、何もする事の
電気を起すための、測量師や工夫の幾組かが東京からやって来たり、山から降りて来たりする頃には、二人の
お島は絶えて聞くことの出来なかった、東京弁の懐かしさに惹着けられて、つい話に※を移したりした
の二日とたたぬうちに、また遣って来た。東京から突如に出て来たお島の父親をつれて来たのであっ
汚い小家が、二三軒離れたところにあった。朝晩は東京の四月頃の陽気であったが、昼になると、急に真夏
「東京から御父さんが見えたから、ここへ連れて来たよ」
島はやっぱり凄い顔をして、考えこんでいた。「東京を出るとき、私は一生親の家の厄介にはなりませんと、
て、ここに沈んでいるものと思っていた。そして東京では母親も姉も、それを信じているらしかった。
考えつめた果の言条であった。春の頃から、東京から取寄せた薬が利きだしたといって、この頃いくらか好い方へ
の水に返されたような安易を感じさせたが、東京が近くにつれて、汽車の駐まる駅々に、お島は自分の生命を
東京へ帰ってからのお島から、時々葉書などを受取っていた浜屋の
其方こっち旅をしたりして暮していたが、東京へ来たのもそんな仕事の用事であった。
東京で思いがけなく男に逢えたお島は、二三日の放肆な遊びに疲れ
一緒に持っていた幾許かの金も、二三月の東京見物や、月々の生活費に使ってしまってから、手が利くところから仕立物
女は居辛かった田舎の嫁入先を逃げて来て、東京で間借をして暮していた。着替や頭髪の物などと一緒に
等姑さんと気が合わなんだで、恁して別れて東京へ出て来たけれど、随分辛い辛抱もして来ましたよ。今
「でも東京というところは、気楽な処じゃないかね。私等姑さんと気
父親をお島に逢わせるのが心に憚られた。東京に住つけた彼の目には、久しく見なかった惨めな父親の生活
見えて来た。大きい洋風の建物が目についたり、東京にもみられないような奥行の深そうな美しい店屋や、洒落た構
こんな田舎の町なんか、成功したって高が知れている。東京へ帰ったって威張れやしないよ」そう言って拒むお島の空想家じみた
に憚られた。著いて間もない時分の彼女から、東京風の髪をも結ってもらい、洗濯や針仕事にも働いてもらって、
になるまで、お島たちは口を捜すのに、暑い東京の町を一日彷徨いていた。
の産んだ子だと思うと、厭になってしまう。東京へでも出ていなかったら、貴方もやっぱりあんなでしょうか」
田舎へ引込んで、そこで思わしいことがなくて、この頃また東京へ来て、日本橋の方の或洋酒問屋にいるとか聞いた鶴さん
が、肺がちっと弱いから用心しろと言われたから、東京で二三専門の博士を詮議したが、事によったら当分逗留して
暑い東京にも居堪らなくなって、浜屋がその宿を引払って山へ帰るまで
「それは東京にも滅多にないような好い男よ」お島は笑いながら応えたが
浜屋はお島に買せた色々の東京土産などを提げこんで、パナマを前のめりに冠り、お島が買ってくれ
首を出して、四下を眺めていたが、しばらく東京を離れたことのない彼女には、どこも初めてのように印象が新しかっ
島は口を利くものもない客車のなかで、静かに東京の埃のなかで活動している自分の姿が考えられるような気が
「私は東京から、あの人に少し用事があって来たものですが、お話の
電話室へ入って、東京の自宅の様子を聞くことのできたのは、それから大分たってから
夜があけると、東京から人の来るのが待たれた。そして怠屈な半日をいらいらして暮し
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やって貰ったりした。お島はお花と俥で上野の方から浅草へ出て往った。そして観音さまへお詣りをしたり
お島は日がくれても家へ帰ろうともしず、上野の山などに独でぼんやり時間を消すようなことが多かった。山の
島は浅草や芝居や寄席へ一緒に遊びに行ったり、上野近くに取っていたその宿へ寄って見たりした。
上野は青葉が日に日に濃い色を見せて来ていた。蟻の
避暑客などの雑沓している上野の停車場で、お島が浜屋に別れたのは、盆少し前の或
多くの建物の、日に日に壊されて行く上野を、店を支えるための金策の奔走などで、毎日のようにお島
て来たお島が、その男に後を頼んで、上野から山へ旅立ったのは、初夏のある日の朝であった。
だけの身のまわりを拵えて、お島があわただしい思いで上野から出発したのは、六月の初めであった。
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で、父や母にやいやい言われて、翌年の春、神田の方の或鑵詰屋へ縁着かせられることになったお島は、
その主人を、お島の姉もよく知っていた。神田の方のある棟梁の家から来ている植源の嫁も、その主人
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日本橋辺にいたことのあるおかなは、痩ぎすな躯の小い女で
そこで思わしいことがなくて、この頃また東京へ来て、日本橋の方の或洋酒問屋にいるとか聞いた鶴さんのことをも、
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て来たとき、小野田の計画で到頭そこを引払って、月島の方へ移って行ったのは、その冬の初めであった。
月島で幅を利していたその請負師の家へ、お島は新調の著
二人が月島の店を引払った頃には、三月ほどかかって案じ出した木村の新案
ばかり纏まった収入の当がつくと、それを見越して、月島にいる頃から知っていた呉服屋で、小野田が目をまわすような派手
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、どこへ落着く当もなしに、暑い或日の午後に新橋へ入って来たとき、二人の体には、一枚ずつ著けたもの
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一月ほどの練習をつんでから、初めて銀座の方へ材料の仕入に出かけて行って、帰って来たお島は
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、まだ時々店頭へ来て暴れたり呶鳴ったりする狂女が、巣鴨の病院へ送込まれてから、お島はやっと思出の多いその山へ
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どこを眺めても、昔しの記憶は浮ばなかった。大宮だとか高崎だとかいうような、大きなステーションへ入るごとに、彼女
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の御父さんは、家へ帰って来るとお島は隅田川へ流してしまったと云って御母さんに話したと云うことは、お前
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川西は、独り店頭にいた小僧を、京橋の方へ自転車で用達に出してから、註文先の話をしてお