爛 / 徳田秋声
地名一覧
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伊豆へ立つときも、このごろ何かのことに目をさまして来たらしいお今
伊豆の温泉場では、浅井は二日ばかり遊んでいた。海岸の山には
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汽車がなつかしい王子あたりの、煤煙に黝んだ夏木立ちの下蔭へ来たころまでも、水の
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そう言う女中は、小石川の方にある博士の邸のことについては何も知らなかった。しかし
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増は台所で体を拭くと、浴衣のうえに、細い博多の仕扱を巻きつけて、角の氷屋から氷や水菓子などを取って来
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「どうせ真似事さ。ことによったら、それを持って北海道の方へ廻るかも知れないのよ。そうすれば、お金がどっさり儲かるから
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手土産などをさげて、本郷の方のある友人の家の門を叩いたのは、もう十二時過ぎで
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浅井はそのころ、根岸の方の別邸へ引っ込んでいる元日本橋のかなり大きな羅紗問屋の家などへ出入り
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赤坂の方で新たに借りた二階建ての家へ、やっとお増の落ち着いた
退ける少し前に、会社へ電話のかかって来た、赤坂の女の方へ、浅井は心を惹かれていた。浅井はその女
募って行った。時々花などに託けて耽っている、赤坂の女のことなども、お前の口から言い出された。
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着飾らせた子供の手を引いて、日比谷公園などを歩いている夫婦を、浅井もお増も、どうかすると振り
お増は、帰りに日比谷公園などを、ぶらぶら一周りして、お濠の水に、日影の薄れかかる
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(例)下谷
最初におかれた下谷の家から、お増が麹町の方へ移って来たのはその年
自由な体になってから、初めて落ち着いた下谷の家では、お増は春の末から暑い夏の三月を過し
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「みんな聞いてしまいましたよ。前に京都から女が訪ねて来たことも、どこかの後家さんと懇意であっ
「その京都の女からは、今でも時々何か贈って来るというじゃありませ
「この前、愛子という女が、京都から訪ねて来たときも、こうだった。」
しばらく京都に、法律書生をしていた時分に昵んだその女は、旦那
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思い出された。幼い時分に別れたその兄は、長いあいだ神戸の商館に身を投じていた。田舎にいる母親の時々の消息を
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の目に感づかれた。浅井は商業に失敗して、深川の方に逼塞しているその伯父と一度会見すると、こっちから逆捻
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最初におかれた下谷の家から、お増が麹町の方へ移って来たのはその年の秋のころであった。
、莨を喫いながら呟いた。お増の目には、麹町の家に留守をしている細君の寂しい姿が、ありあり見えるようであっ
麹町の方へ引き移ってから、お増はどうかすると買いものなどに出歩いて
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「ううん、私はやきゃしない。こうやっているうちに、東京見物でもさしてもらって、田舎へ帰って行ったっていいんだわ。
豪いんだとさ。今じゃ公使をしていて、東京にはいないのよ。そこへその時分、始終遊びに来て、碁
同じような記憶が、新たに胸に喚び起された。まだ東京へ出ない前に、しばらくいたことのある田舎の町のお茶屋の若旦那
が立って、そこにいられなくなったお増は、東京へ移ってからも、男のことを忘れずにいた。そこのお
「それでもちっとは東京の町が行けるようになったかい。」
に同情を寄せた。そして一月ほど、そっちこっち男に東京見物などさしてもらうと、それで満足して素直に帰って行った。
を持ったということを伝え聞くと、それを持って、東京に親類を持っている母親と一緒に上京したのであった。浅井
この子供たちと一緒に、劇しいヒステレーで気が変になって東京在の田舎の実家へ引っ込んでいる隠居の添合いが、家政を切り廻して
柳の兄が来たという電報を受け取って、浅井が東京へ帰って来るまで、小林はもう二度もお柳の家で兄に
てかかるお柳の険相な顔や、長いあいだ住みなれた東京の家を離れて、兄と一緒に汽車に乗り込んで田舎へ帰って行く
増の方へ引き渡されたのは、お柳母子がいよいよ東京を引き払って行こうとする少し前であった。小林の家から、浅井が
につけて、足手纏いになる子供を浅井にくれて、東京附近の温泉場とかへ稼ぎに行っているのだということも、真実
たような気がしたのであったが、濁った東京の空気に還された瞬間、生活の疲労が、また重く頭に蔽っ被さっ
「静ちゃん。もう東京よ。」
いる一人の青年の、力ない咳の声が、時々うっとりと東京のことなどを考えているお増の心を脅かした。
瀬音に駭かされた。電気の光のあかあかと照り渡った東京の家の二階の寝間の様などが、目に映って来た。
自分の田舎で生活したものか、それとも好きな東京で暮したものかと、時々それをお増などに相談するのであっ
東京近在から来ている根岸の召使いを、お増も一、二度見かけた
婿にあたる男は、以前東京にもしばらく出ていたことがあった。妙に紛糾った親類筋
東京の生活の面白みに、やっと目ざめて来たお今の柔かい胸に、兄
な目色をして、「私東京がいいんですの。東京で独立ができさえすれば、私田舎へなぞ行くのは、気が進ま
?」お今は甘えるような目色をして、「私東京がいいんですの。東京で独立ができさえすれば、私田舎へなぞ
動かしがたい希望を告げて、自由な体になって、再び東京へ出て来る時の楽しさや不安などが、ぼんやりと浮んでいた
に出来かけていた。お今の胸には、すっかり東京風に作って、田舎の町へ入って行くときの得意さや、兄
たことなどが、その手紙の文句から推測された。東京にいる時分に、もう大分兄の手で費消されたような様子も
お柳がふとある晩、東京へ行くといって、騒ぎ出したのは、この冬の初めのことで
ことが解りましたわ。どんなことをしても、私東京で暮そうと思いましたわ。」
なった感情が衝突して、お今の上京後一人で東京へ逃げ出して来たという事実が、じきにお今にあててよこした
時々兄や母の圧えつける手から脱れて、東京へ行くといっては、もがき苦しんだり、家中暴れまわったりしたというお
話もしずに、じきに帰って行ったが、当分東京にいて、また学校へ入ることになるか、それも許されなければ
浅井は東京附近の田舎にいる、その女のことを言い出したが、そんな女と
「ことによったら、僕は東京で一軒家を仮りようかとも思っています。」
お増は、ふと東京で懇意になった遠縁続きの男に、自分の身のうえや、生計
お増はここへ来たてのころの、まだ東京なれないお今の様子や、これまでに世話して来た、浅井や
と一緒にしばらく東北の方へ旅稼ぎに出ていて、東京にいないことが、お増には心寂しかった。
て行く自分の身のうえを嗤っていた。青柳は東京ではもう、どこも登るような舞台がなかった。
年のうちに内祝言だけを、東京ですますことに話が決まるまでに、例の店員が、いくたびとなく
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一緒に居並んでいる店頭の薄暗いなかを、馴染みであった日本橋の方の帽子問屋の番頭が、知らん顔をして通って行ったり
浅井はそのころ、根岸の方の別邸へ引っ込んでいる元日本橋のかなり大きな羅紗問屋の家などへ出入りしていた。店を潰して
だとしか思われなかった。浅井の言ったとおりに、日本橋の方の、ある料理屋に女中をしていた知合いの女と、その
室は日本橋にある出張所の方から、時々取って来る金などで、どうかこうか
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浅草のある劇場の裏手の方の、その家を初めて尋ねて行った時、
「ううん、何だかつまらなかったから、浅草のお雪さんの家を訪ねて見たの。」
二組の夫婦は、時々誘いあわして、浅草を歩いたり、相撲見物に出かけたりした。そしていつも酔っ払って、隣の
浅井はこう言っては、子供の悦びそうな動物園や浅草へ遊びに行った。子供も一緒に見る、不思議な動物や活き人形など
増は思いついて室をも一緒につれて、三人で浅草辺をぶらついたり、飯を食べたりして、お今を男に昵ませよう
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明るみへ楽しい冒険を試みたり、電車に乗って、日比谷や銀座あたりまで押し出したりした。
はちょうどお今をつれて、暮の買物をしに、銀座の方へ出かけて行こうとしているところであった。新しい足袋をはい
増は帰りに静子の手をひいてぶらぶら歩いたついでに銀座から買って来た、セルロイドの小さい人形や、動物などを、浅井の枕頭
揚げの配りものなどが済んでから、浅井がふと通りがかりに、銀座の方から買って来たという真珠入りの指環が、ある晩お増
電燈のちらちらするころに、二人は銀座通りをぶらぶら歩いていた。
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大通りの明るみへ楽しい冒険を試みたり、電車に乗って、日比谷や銀座あたりまで押し出したりした。
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日暮里へ来ると、灯影が人家にちらちら見えだした。昨日まで、瀑などの
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別れた浅井夫婦は、このごろ、根岸の別荘を売り払って、神田の通りへ洋酒や罐詰、莨などの店を開けた、隠居の方へ
神田の隠居の家では、初め思ったよりも、店の景気のいいこと
博士の落胤だという母子の家へ遊びに行ったり、神田の隠居の店へ出かけて行ったりした。そんな時に、気のおけ
神田の店はだんだん繁昌していた。