雷門 明治座 神楽坂 北海道 関西 外神田 松山 浅草 銀座 錦糸町 東京 日本橋

雷門で電車をおりて、仲見世の銀花堂で、下町好みの静枝に見舞ひの

の持ち立ての、晴れて対で歩くのが嬉しい頃、明治座を見物した時のこと、中幕の「毛抜」がすんで、食堂で西洋

来るので、同伴してみるとそれが何時でも神楽坂の花柳界の連中の日であるのが不思議であつた。その度に晴代から

、考へてみると、妻があるとは知らないで、北海道まで一緒に落ちて行かうと思つた男が曾つて自分にもあつた。

「月魄」といふ関西の酒造家の出してゐるカフヱの入口へ来た時、晴代は今更らさう

立つことに、ちよつと気怯れがした。その頃銀座には関西の思ひ切つて悪どい趣味の大規模のカフヱが幾つも進出してゐた。女給の

あるからと言つて、飛びこんで来た知り合ひの大工は、外神田の電車通りに、羅紗や子供服や釦などの、幾つかの問屋にする

られたのか、ウヰスキイの効き目も薄かつた。コックの松山は、ちよつと見るとフランチョット・トーン張りの上品ぶつた顔をしてゐた

松山はもう三十四五の、女房も子もある男だつたが、さう

（例）浅草界隈の

を仰ぎながら細々暮らしてゐた古い商売友達の薫が、浅草のカフヱに出てゐて、さういふ世界の空気もいくらか知つて

の済まない芝居を見るとか、地廻り格になつてゐる浅草界隈の待合へ入侵つて花を引くとか、若いものの道楽といふ

噂も出た。その若者も既に女房もちだつたが、浅草辺にも一人落籍せた女があつた。彼等に取つては結婚し

にせよ、少しでも懐ろに金が入ると、彼は浅草辺をふら／＼した。何うせ追つかない世帯だと思ふと、

暫し時代相応の享楽世界を醸し出してゐたが、晴代が銀座で働かうと思ひ立つた頃のカフヱは較下り坂だと言つた方がよ

職業戦線に立つことに、ちよつと気怯れがした。その頃銀座には関西の思ひ切つて悪どい趣味の大規模のカフヱが幾つも進出してゐ

静枝といふ美しい女に頼まれて、客にさそはれて銀座裏のおでん屋へ入つたり、鮨を奢られたりしたものだが、

、それで解つた訳だつたが、それよりも晴代が銀座へ勤めるやうになつてから、彼の惰性的な遊び癖も一層嵩じて来

錦糸町の家へあがると、戸がしまつて皆な寝てゐたが、母

憧れの世界を捜さうとして、結婚を嫌つて東京へ出ては来たが、ひどい結核で、毎夜棄鉢な酒ばかり呷つて

雰囲気に折り合ひかねるところもあつた。結婚の破滅から東京へ出て来て、慰藉料の請求訴訟の入費で頭脳を悩ましてゐる師範

の父親の十三回忌に当ることを想ひ出した。父親は日本橋の木綿問屋だつたが、生きてゐる間は、仕送りもして偶には