四国 銚子 山梨 神原 青島 宇品 上町 小谷 九州 大阪 京都 松山 神戸 東京 神田

辺へ来るわけぢやないよ。船は船だらうが、四国の松山といふ所へ収容所ができるらしいんだな。そこへ運ばれるん

だが、それがこの土地には縁がなく、遠い四国のことだと知ると同時に、彼の興味は消えてしまつた。彼

、二人の間には手もつけないまゝで生温くなつた銚子が二三本も置かれてゐた。こゝでも房一はもう会ふ人ごと

そして、まだしきりに興奮して、「やい」とか「山梨の野郎、出て来い」と思ひ出したやうに怒鳴る練吉の腕をしつかりと

いふわけでね、喜作さんにはそのまゝ財産をつけて神原の方へ籍をもどしたんだな。――それを今かへせといふ

「うん。青島陥落の、ほら、旅団長閣下だよ」

「神尾司令官閣下と同列なんだよ。宇品から東京駅着。それから直ちに参内上奏されたんだよ。どうも、すばらしい

のまゝ顎を突き出した恰好で坐つた。その次は上町の醤油屋の主人だつた。正文と等位置の左手へかけては堂本が坐

引取つてゐた。その妾が死んだからである。小谷の放蕩は由子が来る前からのものだつた。今はどうにか自然

、由子は結婚以来殆ど楽しい思ひをしたことがないほど小谷の放蕩に悩まされた。そのあげくに、妾に産ませた子を引取らね

つ苦労の種を背負ひこむことになると思つたが、小谷の放蕩に悩まされるよりもこの方がどれだけましかしれないと考へて引受け

小谷の店では実にあらゆる品を売つてゐたが、その中には

が薬品類もあつた。したがつて、高間医院は小谷にとつて多少のお得意先でもあつた。今では、小谷は心易立て

りとした眼を上げて小莫迦にした風に小谷を眺めた。大きい麦藁帽子を被つてゐるので、小谷のやさしい顔立ちはひどく女

だが、さう云つてすゝめる当の小谷には、その細面の小柄な様子には、何でも似合ふやうなところが

小谷はやさしみのある顔をぽつと紅らめ、いくらか饒舌になり、それと

たにちがひないが、房一はじめ、神原喜作も練吉も小谷まで、それから後から馳けつけて来た四五人の主だつた連中も声をからし

、あんた。銅の値が上つたさうですね、昨日も九州の方から礦山師が赤山を見に来たんです。あの山ぢあね

「君は昨日その九州から来た連中を赤山へ案内して行つたちふぢやないか」

多い築地塀を真似たものだつたが、様式は京都や大阪にありさうな塗壁の塀であつた。その家はびつくりさせるやうな大きさ

旧家に多い築地塀を真似たものだつたが、様式は京都や大阪にありさうな塗壁の塀であつた。その家はびつくりさせる

京都で行はれる御即位の大典はもう四五日後に迫つてゐたのだ

られた山地は、今この高台盆地の周囲を低いなだらかな松山や雑木山となつて縁どり、その稜線は一種特別に冴えて、空と

来るわけぢやないよ。船は船だらうが、四国の松山といふ所へ収容所ができるらしいんだな。そこへ運ばれるんだ

やるというて聞きませんだつたが。――それで神戸高商を出ましてな住友へ入つて結構やつとりましたが、三年

場のバラック住ひが「出けん」もんだから、ずつと神戸在の田舎に置いてある。（さうすると、本妻と妾と二人住ま

高等科がすむと、彼は突然、法律を勉強しに東京へ出たいと申出て、父を驚かせた。家中の者の反対に

は看護卒を志願した。二年の後彼は又東京へ出て来た。そこで様々な生活を経験した末、又もや医学

段の希望をかなへることができた。彼は二年間東京で法律書生として苦学したが、中途で方針をかへて医学

てゐた。その野心の目的といふものも、彼が東京の市内で散見することのあつた大病院の院長とか、或ひは病理学

その様子が房一に余裕を持たせた。彼は東京の代診時代に覚えた世間慣れた快げな微笑を浮かべることさへできた

さういふお話をうかゞふと、貴方ほどの努力家は東京に残つて研究をつゞけられた方がよかつたかもしれませんな。

た知吉は、今に見ろと思つたにちがひない、東京へ出て法律を勉強した。あいはむろん同行した。五年か

書生でしてね。司法官か弁護士試験でも受けるつもりで、神田の私立大学に通つてゐたもんです」