競漕 / 久米正雄
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もう帰って来ているはずである。現に二三日前も本郷の通りで会った。その時の話ではまた戯曲を書きかけているの
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選手は皆、長命寺の中の桜餅屋の座敷で、樺色のユニフォームを着た。それが久野に
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て川面に波を立てた。だんだん陽春の近づくにつれて隅田を下る船の数が増して行く。そしてこのごろではそれを縫って走る各
に蹲まった。目の前は千住の方から来た隅田の水が一うねり曲って流れ下る鐘ヶ淵の広い川幅である。幾つかの帆や
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へゆく。敵手の農科はもう出てしまっている。もう千住くらいまで溯って練習しているのであろう、工科の艇も繋いでない
な船が眼前を横ぎる。白い短艇が向うを滑る。ふと千住の方への曲り口に眼をやると、遠く一艘の学校の短艇
て練習して見ようということになった。久野らは千住の手前で二度力漕をして、それからネギ(力を入れない漕ぎ
を下ろして夕日の中に蹲まった。目の前は千住の方から来た隅田の水が一うねり曲って流れ下る鐘ヶ淵の広い川幅で
川の面や、青み渡った向う岸の蘆や、霞んだ千住の瓦斯槽なぞを見やった。
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舵のところから「うん」と曖昧な返辞をしながら、鐘ヶ淵から綾瀬川口一帯の広い川幅を恍惚と見守っていた。いろいろな船が
すかして見た。するといつの間に来たものか鐘ヶ淵の汽船発着所の上手に農科の艇らしいのが休んでいる。急いで
千住の方から来た隅田の水が一うねり曲って流れ下る鐘ヶ淵の広い川幅である。幾つかの帆や船が眼の前を静かに
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なかった。艇首を曲げたまま出発しては、たださえ浅草岸へ向きたがる艇の癖を、一層激しくするようなものである。水路
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って間に合わぬこともない。これが高等学校以来もう六年も隅田川で漕いで来た窪田の肚であった。それでもいくら舵だって
「窪田君のような隅田川の河童がいるんですから、万事この人に任かせておくといい
「御苦労でした」と言われて今までの敵意をすっかり「隅田川へ流してしまった」と自白したほどであった。