受験生の手記 / 久米正雄
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も亦だら/\と怠けてゐるらしかつた。淺沼は神田錦町の下宿にゐたが、いつ行つて見ても机の上に、申し譯
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反對に、仲間でも眞面目な方だつた。彼は小石川小日向のある寺に間借りをしてゐた。西向の陰氣な部屋だつた
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遊ぶと云ふ方にかけては、本郷の新花町にゐる佐藤が、その尤なるものであつた。彼は惡い遊びを
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内科の助手をしてゐる。澄子さんはこゝへ、即ち千駄木のこの叔父の家へ、殆んど毎日曜に遊びに來るのを常として
千駄木の家へは繁々と往來した。澄子さんとも屡々出會つた。受驗
明くる日千駄木の姉から手紙が來た。慰問の手紙だつた。餘り氣を落して、
を想像すると、有難いよりも悲しくなつた。そして當分千駄木へは行くまいと思つた。
二三日過ぎると私は、急に千駄木へ行かうと思ひ立つた。ひとり失意の苦惱を續くるにも堪へ兼ねて
千駄木の家には姉が一人ゐた。姉は私が入つて來るのを見る
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本人はきつと誰かと碁を圍んでゐた。根津のある素人下宿に同郷の先輩と一緒にゐる佐々木は、度々訪ねて行つた
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方だらう。――どうだい、是から行つて、湯島天神にゐる易者に番號を占つて貰はうぢやないか。よく當
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翌朝、私は上野公園の高臺のベンチへ、ぼんやり腰を下ろしてゐる自身を見出した。
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出て、自由に勉強することが出來るのだ。それに東京には、去年の八月來半年會はない、慕はしい澄子さんが
もあつた。併しもと/\受驗を口實に、東京へ遊びに來てゐる彼は、そんな言葉に耳も傾けなかつた。
無いんでね、特別に蟄居してゐたのさ。東京は金がなくちや詰らない處だよ。金さへあれあこんな良夜を、
が解るんだが、君は全く特別だよ。まあ折角東京にゐる癖に、君たちはわざと面白い處を避けて通つてゐるん
せずにゐたのだつた。私に取つては東京の女は、それも美しい都會の少女などは、迚も知己にさへなり
いらつしやい。」と招いた。初めて他人に使つた東京語が、喉に支へながらも、とにかく滑かに出たのが嬉しかつ
から最初の年に入るのが肝要ですよ。でないと東京でぶら/\遊んでゐる中に、都會風に染まるまいと思つて
「その田舍者の中が花ですよ。學生も東京馴れるとお終ひです。――入學試驗を受けるのだつてさうですよ
には薄ぼんやりした星が散らばつて、その下には東京の街明りが、どよめきながら映つてゐた。一二町先きの湯屋の煙突で
にしても入らないにしても、一高に、東京に、こゝにゐて貰ひ度くなかつた。が、まさかに兄
延びればよかつたと思つた。自分を瞑々の間に東京へ引き留めたのは、實は全く幻影に過ぎぬかも知れない、澄子
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上野へは薄暮にならぬ中に着く筈だ。汽車は猶も私と私
だらうが、宿の人の話に依ると、彼は上野の展覽會とか、芝居とか寄席とかへ始終行つてゐるらしかつ
とう/\上京して來た。四月の初めで、上野は櫻に埃れてゐた。群集はぞろ/\街を通つ
暮れ早く、不忍池の水面には、花明りの處々した上野の杜からかけて、蒼茫たる色に蔽はれながら、博覽會の裝飾電燈
上つて出て來た。弟を殘して三人は上野へ出かけた。天氣がうつすら晴れてゐたので向うまで歩いて
私はそつと涙を拭いて、上野停車場の方へ向つた。