貞操問答 / 菊池寛
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忘れて、美和子がうきうきと、訪ねて行った先は、四谷からはさほど遠くない原宿であった。
「四谷のお宅は、谷町でしたね。谷町の何番地ですか。」
ね。ここから、弥生町へ抜ける道を知っているし、四谷に住んでいて、梅月の蜜豆なんかたびたび喰べに来るのかい?」
新子が、昨夜四谷の家に帰ったのは、十二時過ぎであったが、昼の酷暑に
雨よけのお召のコートを着て、新子は十一時、四谷の家を出た。
のラサールという、素晴らしく長い車台の車に送られて、四谷の家近く、だがなるべく近所の人の目にふれない所で、おろして
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働くと決心した以上、軽井沢へ付いて行って、早く子供達になじんだ方がいい。九月まで待って
二、三日の内に軽井沢へ行きます。貴君もお忙しいようだし、多分秋までお目にかかれませ
、忙しいのを知っていたから、今宵会わなければ、軽井沢へ行くまでに、会う機会がちょっと得られないことを知っていた。
だから、会わずにこのまま、軽井沢へ行ったところで、二人の間にどう影響するという間柄ではなかった
て、前川家の人達よりも、一日遅れて、軽井沢へ来るよう命ぜられた。
「軽井沢は寒いだろうから風邪を引かないように……」と、窓から首をさし入れ
軽井沢の駅には、小さい兄妹が、十六、七の女中につき添われて出迎えに
てあり、取りつけのベッドがあり、気持のよい部屋で、軽井沢特有の少し湿気を帯びた、すがすがしい山の風が、部屋の中を吹き払って
には、森に入ってからではあったけれども、軽井沢特有の雷雨に会ってしまった。小太郎と祥子とは、それをまた、面白
「ほほほほほほ。じゃ軽井沢だけの男友達でいいじゃないこと、ほほほほほ。」
打たせ始めると、夫人は怒ってでもいるように、軽井沢近くなるまで、物を云わなくなってしまった。
新子が軽井沢へ行くとき「今ウカウカしていると、親子四人で飢えるようなことに
軽井沢は、ほんとに貴君に気に入りそうなところですわ。何とか都合し
て読んだ。そして、四、五日の内に、一度軽井沢へ行ってみようと思い出した。
、新子を訪ねて行ってもおかしくないだろうし、初めての軽井沢を、新子に案内してもらって歩いたら、どんなに楽しいだろうと思ったりし
聞えた声は、ソックリ新子の声だった。(急に軽井沢から帰って来たのかな)そう思って、胸をとどろかして、階段の
が、ついでに、この次の丘の上まで行きましょう。軽井沢が一目に見えますよ。おつかれでなかったら、ご案内しましょう。」にわか
準之助氏は丘に上ったら、新子と一しょに見下す軽井沢が、どんなに美しいだろうかと考えていた。
雉子の貸してくれる傘なら、山蕗の葉かなんかで、軽井沢の夕立の役には立ちませんよ。夕立になるのかな。」と
軽井沢へ来てから、昼間あまり、かけずり廻るので、夕ご飯がすむ頃には、
と、どういうところを、ウロウロするか分りませんし、狭い軽井沢ですもの、貴君とご一しょのところなんか人に見られたら、私の顔に
に着かえて、床の上に四肢をのばした。が、軽井沢の冷々した夜気にひきかえて、夜半過ぎても汗ばむほどの東京の暑
「お姉さまなんか、軽井沢へ行って、先生なんかしているからいけないのよ。日曜日には坂の
「お姉さまは、もう軽井沢へいらっしゃらないの。」と、訊いた。
「私、お姉さまが、軽井沢へいらしった後で、美沢さんに会ったの。」と、云いつづけた
軽井沢へなど行かなければ……と、やや涙の納まったひまに思い返すと、悪夢
あのあやまちも、軽井沢へ行ったためだった。夫人に対する意地と反感と、準之助氏から受けた
詫びなどと、おっしゃられると、かえって困ります。私も、軽井沢にいたときのことは、みんな夢であったと、忘れ棄てるように努め
「おかしいな。軽井沢に行っている南條先生かい?」と訊き返すと、
「いや。しかし、大変よい評判で、結構でした。軽井沢に居りましたので、新聞の批評だけで、舞台は拝見しませんでし
非常識極まる電報をよこして……私が、何をしに軽井沢へ行っていたと考えていたの。私は、あの電報を見た
、僕もとても厭な気持でした。だから、翌日、軽井沢を引き上げて来たのです。」準之助の気持も、新子の顔を見た
まるで、思いがけなかったのです。もう、あきらめて明日は、軽井沢へ行って、女房と替ろうと思っていたのです。だから、どんなに
も悪いことしていたのよ。お姉さまが、軽井沢から帰ったことを、あの人に全然だまっていたのよ。だから、
「しばらく……軽井沢の方へ、おいでになって、いらしったそうで、少しおやせに
あまりこっちに長く居りまして、具合が悪いので、明後日軽井沢の方へ参るつもり、明日午後は暇ですから、よろしければその家見にいらっしゃい
から何まで、して頂いて……相すみません、軽井沢からは、いつお帰りになりました?」
しないのよ。ところが、この夏、お姉さまが軽井沢へ行ってしまったでしょう。その留守に淋しがりやの美沢さんは、少し自棄
神に誓ってないと前川は自分で思っている。また軽井沢で、自然の力と境遇の偶然性に駆られて、ちょっと唇を触れた
お気持が聴きたいんですよ。貴女は、どうして軽井沢から、帰って来ながら、すぐに僕のところへ、手紙なり姿なり見せて
「貴女が軽井沢へ行かれた後、不意に美和ちゃんに、訪ねて来られて、その晩
軽井沢から、帰って来て、すぐにも美沢のところへ行かれなかったのは
貴方のお気持よく分っていますの。でも、私軽井沢から帰ると、いきなり美和子から聞かされてしまったんでしょう。その上お母さままでいら
「じゃ、貴女が軽井沢へ来ていられた間に、その方と美和子さんが仲よくなってしまっ
「それは、まだ新子さんが軽井沢にいらしった時の、ことなんですの。」夫人は、肝心な点
新子が軽井沢にいた項から、もうそんな金を前川が与えていたなど、駭くに
「ほら、この夏、貴君が軽井沢に見えたとき、南條って、家庭教師がいたでしょう!」
ね……」と、木賀は実に意外に思いながら、軽井沢で見た、清々しい、しかし澄んだ色っぽさのある新子の全体を、ハッキリと
少女達に、話しかけるその声で、新子はハッとなった。軽井沢で、前川夫人の遊び友達として、知り合った木賀子爵ではないか。
、大賛成だ。ロマンチックで、いいですな。僕は、軽井沢で、貴女と話をした味が、忘れられないんですよ。――
結婚してしまわれたのではないかと思った。軽井沢で、この一筋と思うような人でなければならんというような気焔だっ
では綺麗なことばかりおっしゃるけれど、貴女と私達一家とは軽井沢でご縁が切れているはずでしょう。それだのに、なぜ主人と交渉を
しなければならない。理性にだけつけば、僕達は軽井沢で、もう別れて路傍の人になっていますよ。あんな酒場なんか出さない
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られていたと見え、公園裏のコンクリートの大道を、入谷から寛永寺坂にかかって、上野公園の木立の闇を縫い、動物園の前で止まっ
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の前へ出て、あすこで梅月の蜜豆を喰べて、追分のところで、別れるの。少し長いけれど、いい散歩コースじゃなくって、さっき活動
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で弥生町の家から、谷中の天王寺に出かけたり、省線で横浜へ行き外人墓地を高見から、眺めたりしたことを思い出した。
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顔を出さなきゃいけないんですって……練習所は、荏原の方だから、早起きしなければいけないんですってね……」
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)が好きなので、よく二人で弥生町の家から、谷中の天王寺に出かけたり、省線で横浜へ行き外人墓地を高見から、眺めたりし
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母の話によると、美和子は昨夜美沢と一しょに、鎌倉か逗子かへ遊びに行って、今朝二人で美沢の家へ帰って来た
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裏のコンクリートの大道を、入谷から寛永寺坂にかかって、上野公園の木立の闇を縫い、動物園の前で止まった。
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もいいのですが、貴女のご都合がおよろしければ、休み中軽井沢の方へ行きますので、あちらへ来て頂いても、よろしいのです
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「押出しまで行きましょうよ。休みなら千ヶ滝の坂の下へ、馬を預けて、ホテルでお茶をご一しょに
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石燈籠が、ずらりと両側に並んで、池の端から、下谷の花柳界の賑いの灯が、樹間に美しく眺められた。
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、何の新しい収入の当もないのに、家賃の高い麹町の家に暮していた。姉の圭子は相不変女子大に通い、新子
それから、三時間ばかりの後に、新子は麹町元園町の前川邸の応接間にいた。
「覚えているよ。麹町の家でだろう。お茶を出して、すぐ逃げてしまったじゃないか
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へ、父の存生中から、出入りしている重松という日本橋の時計屋が来ていた。四、五年前までは、よく恰好
美和子の親友相原珠子の家も、日本橋の大きな海産物問屋で、原宿の住居も新築のすばらしい邸宅である。
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と、訪ねて行った先は、四谷からはさほど遠くない原宿であった。
の親友相原珠子の家も、日本橋の大きな海産物問屋で、原宿の住居も新築のすばらしい邸宅である。
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「これから、銀座へ出ても、もうお店起きてないかしら?」
「ねえ、美沢さん。一しょに銀座へ行かない?」
美沢は、とうとう通りかかった円タクを呼び止めて、銀座まで五十銭に値切った。
会うのを断念した自分が、美和子につき合わされて、銀座へなどと思うとくすぐったい思いがしたが、しかし朗かさそのものである
くれる新子が、自分を待つ間の手ずさみだと思うと、銀座行きがひどく後悔されて来て、何かしら自分と新子との愛情に
九時までいたんでしょう。それから、靴下を買いに銀座へ廻ったんでしょう! 遅くなるはずよ。それよりも、お姉さん、わたし
ついたの。だから、私美沢さんとお別れして銀座へ行こうと云うと、あの方、ご一しょにいってあげましょうかって、
送ってお姉さんに会いに来るはずだったのを、私が銀座へ連れ出したの)などと答えては、たいへんだと思ったので、
「相原さんの作る銀座のクロバーよ。」
、ご都合わるき時は、お手紙を。会社の電話番号は、銀座五六八一です。一刻も早くお目にかかりたいと思います。
夕景、銀座へ行くといって出かけた姉であった。新子は姉の非常識に、
思い切って、『酒場』か『喫茶店』――この頃、銀座に流行っていますな――ああいうものを、やってみては如何
活動は一時間ぐらいしか見なかったのよ。それから、銀座へ出てフロリダへ廻ったの。だって、美沢さん、滅茶滅茶に騒ぎたい
な場所や家を探してもらったりしておりました。銀座裏に、芸妓家の売家があること、……しかし、貴女から
銀座の表通りから二つ目の裏通りの新橋寄りで、芸妓屋が二、三
がなかったが、六時近くになると、珍しいもの好きな銀座マンが一人はいり、二人はいり、ソファと椅子とに坐り切れず、予備の
銀座へ来たのは、一時半を過ぎていた。店には、もう
じゃありませんか。今晩、いらっしゃらない罰に、これから銀座で何かご馳走して下さらない。私、あわててお家で、何も喰べ
買物となると、おっぽり出されるなんていやだわ。それに銀座なんか、少しの間だって、独りで歩くの、間がぬけているわ
と思いますが、私すっかり変りましたの。ただ今、銀座のバー・スワンという酒場で傭いマダムを致しておりますの。
帰って、美和子と顔を見合わせるのがいやになって、銀座の電車通りの方へ、一人フラフラと歩き出した。
で、新子はネオン・サインのにべもなく、続いている銀座の街を、それから二十分ばかり、ぼんやり歩いた。やがて致し方のない
それが終ってしまった後の時間潰しに、良人と一しょに銀座でも歩こうと、急に良人を誘う気になり会社へ電話をかけさせ
「その酒場、やはり銀座ですの。有名な家?」と、訊くと、
、それについて、訊ねも致しませんの。ただ、銀座裏とだけは、聞いておりますの。」と、相手にバツを合わせ
ので、この次の「三社祭」を見たら、銀座で買物でもして帰ろうかと、大分味気ない顔付で、パーラーの方へ
たんだからこれを見たら、一しょに出ましょうか。銀座へ、一しょに行ってほしいわ。」
銀座の電車道で、自動車が止まった。
「あの女が、銀座のバーに出ているんですって!」
、聞きはしないのよ、また私があの女が、銀座にいることを知っているなぞと、貴君前川にはいわないで頂戴ね
「貴女が、銀座に出たという噂だけは、聞いたんですよ。それ以来貴女を
「私が、銀座に出ているなんて噂、どなたから、お聞きになりましたの……
「いや、ハッキリは知らないんです。しかし、貴女が銀座のある酒場にいることは知っていますよ。」新子は、それを
ことにしたの。だから、ちょうどいいわ。私、銀座で会ったら、示威をしてやりたい人があるの。」
「ええ、行って上げようか。私今日から毎日一度ずつ、銀座を歩くことにしたの。だから、ちょうどいいわ。私、銀座で
帝国ホテルの演芸場であった。だが稽古場としては、銀座裏の桜亭という貸席を借りていた。
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「羨ましいわ。これから東京は暑くなるのに、新子姉さまだけが別天地にいられるわけね。いい
、昔からいう初奉公の不安、それに難物の夫人、東京を離れた刹那から、新子はやはりかるい物思いに沈んだ。
「奥さまは、来週の水曜まで、東京にいらっしゃいますので……」
すっかりこの生活に落着いてはれやかになった。ただ、夫人が東京から来る時が近づいて来るのが、不安だった。
さまと、お子さまだけをこちらへよこして、奥さまは、まだ東京にいらっしゃいますの。奥さまのご交際の都合だとのことですの。
東京で姉や妹の生活を見て、ジリジリしているより、どんなにいいか
見ると、ものかなしくなって、そのまま暇を告げて、東京へ帰りたい気持がした。
今朝も、夫人の親類に当る木賀子爵という青年が、東京から三、四日の予定で遊びに来ると、夫人はその青年と乗馬
、あまり面白い人間じゃないことをご存じじゃありませんか。東京じゃ、子供扱いで、まるで相手にもして下さらないじゃありませんか
「じゃ、姉さんが、用事があるから、すぐにでも東京へ帰れとでもいうのですか。」
「ええ。いますとも、祥子さんと一しょでなければ、東京へ帰りませんわ。」
お姉さんを後援する意味で、差しあげましょう。今日にでも、東京の事務所の方へ電話をして、お宅の方へお届けしましょう。
その日の午後、木賀子爵は急に東京へ帰ることになった。新子が小太郎の相手をしている時に、
し、それに八月の十日頃に一度、一人で東京へ遊びに帰ろうと思っているので、その留守中新子がいた方
「だってさ、南條先生、東京へ帰ってしまうだろう。そしたら、僕はかまわないけれど、祥子が困る
した夜気にひきかえて、夜半過ぎても汗ばむほどの東京の暑さと、昼から引きつづいている胸のもだもだしさのため、
だのに、たった半月しか東京を離れていないまに、美沢も妹も、自分からはるかに遠い人間
「前川さんも、東京へ帰っていらっしゃるの?」たちまち、傍から姉が、余計な詮索をし
帰って、一人で食事をするのも憂鬱なので、東京倶楽部へ立ち寄って、食事をした。顔見知りの連中は、みんな避暑へ
東京へ帰ってからの、打ちつづく悲しさ腹立たしさに、食慾が衰え、新子は
は、もう会って下さらないものだとあきらめて、明日は東京を離れようかと、思っていたところです……」せわしない興奮した声
我慢には、好い加減馴らされている新子であった。東京下町の小学生が唄いはやす(真中まぐそ、はさんですてろ)と、
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怒っているような姿勢を取って家を出ると、途中日比谷で下りて、そこの郵便局で現金に換え、三時少し前に劇場へ
珍しく、十二時近くまで、スワンで過ごして、日比谷から議事堂横を、自動車で走り過ぎながら、前川は幾年ぶりかに、生甲斐
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ここからは、浅草が一番近いので、二人は予定通り、大勝館へ行くことにして
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銀座の表通りから二つ目の裏通りの新橋寄りで、芸妓屋が二、三軒並んでいる場所で、うり貸家の
ホテルから、新橋よりのバー・スワンへは、物の三分ともかからなかった。
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京橋の十字路も、いつか越していた。