札幌 北海道 深川 東京

札幌から宗谷本線稚内行に乗って三時間、深川という駅で乗り換えて更に一

た頃であったから、その時分気心の合っていた札幌の芸者で君太郎という二十一になる自前の妓と、しばらく人眼を避けて二人

大晦日を眼の前に控えた暮の二十五、六日から札幌を発って、有珠、登別、音威音府、名寄と言った、いずれも

してまだ人っ子一人通ってもいなかった。もちろんまだ札幌へ引揚げようという気持も起らず、さりとてこれからどこへ行こうと決めていた

た君太郎の俤を懐かしく想い出す。今年の夏あたりは、ぜひ札幌へ行って、一度その後の彼女にも逢ってみたいと思っているが、

北海道の留萌港……正確に言えば、天塩国留萌郡留萌町であろうが、もちろん

みてもハッキリとは覚えていないが、大体その時北海道を旅行して歩いたというのが別段これぞという目的があったわけ

ぞという目的があったわけでもなく、いよいよ私も北海道を去って東京へ出ようと決心していた頃であったから、その時分

は夕方の五時頃ではなかったかと思われる。北海道の原野はもう蒼茫と暮れ果てて雪もよいの空は暗澹として低く垂れ下って

に、もう東京へもどこへも行かないで、どこか北海道の涯へでも行って君太郎と一緒に世帯を持って生涯を送ってしまおう

れて、私もようやく座敷へ戻って来たが、酷寒北海道の真夜中はおそらく零度を五、六度くらいは下っていたろうと思われる

札幌から宗谷本線稚内行に乗って三時間、深川という駅で乗り換えて更に一時間半、留萌本線の終端駅と言えば

があったわけでもなく、いよいよ私も北海道を去って東京へ出ようと決心していた頃であったから、その時分気心の合っ

闇の世界だから、なまじっか、野心なぞ起さずに、もう東京へもどこへも行かないで、どこか北海道の涯へでも行って

どんな災難が降って湧くかわからないものねえ、やっぱりあたし、東京へなんか行って出世してもらわなくてもいいわ。こっちで一緒に

みたり、ストーヴの前へ座を占めてみたり、そして東京へ行くとか行かないとか、ポソポソと二人でしゃべり合ってとうとう私たちは

年かになる。私はやはり君太郎の留めるのを振り切って東京へ出て来たが、もうそれっきり彼女には逢わなかった。この頃人伝て