天城山 伊豆 富士山 銚子 芝公園 東京 阿佐ヶ谷 銀座 新橋 神田 水道橋

二階の縁側から、天城山が正面に見える。

の一線も消え、引きちぎられたように乱れ流れて、やがて天城山までも蔽いつくすと、一陣の凉風と共に、大粒の雨がさーっと来た。

「こんど、天城山に登ってみましょうか。」

それも気まぐれらしいが、天城山なら彼も気が惹かれた。

「天城山の渓流には、沢蟹がいますか。」

千代乃は縁側に佇んで、彼方の天城山の暮色を眺めた。

「ひまになったら、天城山に登りましょうね。」

。御一緒にね。途中、湯ヶ原で降りましょう。天城山の代りよ。」

その手紙のあとを追うようにして、伊豆の兄から電報が参りました。常子さんの死亡と葬儀、私の喪服は

。裏山にでも登ってみましょうか。霧の上から富士山が見えてくるところは、きれいですよ。」

程がある、と長谷川は思った。裏山の頂からは富士山がよく見えたが、それももう彼には面白くなかった。

は、本館から届いたらしい料理が食卓に並んでおり、銚子まで添えてあった。

のように出て来てしまった。――彼女は、芝公園の近くで自動車を降り、運転手に心附けも与えず、公園の中に

柿沼治郎、東京の郊外で、小さな製菓会社を経営している人だとか。然し、

柿沼治郎は三泊だけで東京へ帰って行ったが、その中二日間、彼は用件を持ってい

「東京へ？」

「東京へは、明後日でも宜しいんですね。」

「わたしも、ちょっと東京へ行くことにしましたの。御一緒にね。途中、湯ヶ原

「わたし、東京には、三田に伯母さんがあるから、柿沼のところには行かないで

東京での日々は、ほんとに楽しゅうございました。伯母さんの家へいらして

柿沼は一度も来ませんでした。もっとも、私が東京に出たことを、柿沼には知らせていませんでしたが、

葬式には行かないでもよいと思ったと答え、もう東京にも倦きたから帰って来たと答えました。内心はともかく、うわべ

にもとめなかった。すると、相手はあのひとだね。東京に出て来たのかい。君を追っかけて来たんだね。

ばかりの間に、普通の場合の一年間分ぐらいも、東京の街路を歩き廻った。

、わたし用意していますの。ただ、東京都内はいや。東京の外でさえあれば、どこでもいいわ。どんなところでもいいわ

「帰らないって、東京へ。」

千代乃が間もなく東京に出て来るということを、柿沼はどうして知ったのであろう

ないんだわ。そんなら、今日のこと、なぜわたしが東京をいやがったか、すこしも察して下さらないのね。」

はよく存じているのです。以前、私は、柿沼の阿佐ヶ谷の家に行ったり、伯母さんの家に行ったりしていましたが

銀座裏の大きなバーの片隅に、長谷川は石山耕平と向き合って坐っていた

に石山はそう言って、にやにやしていた。彼が銀座で飲む時はたいてい一度はここに顔を出すことを、長谷川は知って

胸の中で独り呟いた。自動車をひろって、彼は新橋近くまでゆき、その晩ひどく酔っぱらった。

家にいるので、外へ誘いだし、タクシーを拾って、新橋近くの小料理屋へ行き、狭い一室に通った。

柿沼は神田に小さな事務所を持っていた。午後は、都心から遠い製菓会社の方

ての報道がのっていた。――昨日の夕刻、水道橋の国鉄電車のホームから軌道に落ちて轢死した紳士があった。名刺