鬼カゲさま / 豊島与志雄
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た秩父の司も、たいへん心配しまして、ある日、三峰山の中に、三峰の法師をおとづれました。この三峰の法師といふ
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ひろびろとした武蔵野を、江戸の方へむかつて、五人のさむらひをのせた五頭
むちゆうでした。息もつけないほどの早さで、武蔵野を突つきり、江戸につき、殿様のやかたへかけつけました。
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秩父のおくにゐました秩父の司も、たいへん心配しまして、ある日、
秩父のおくにゐました秩父の司も、たいへん心配しまして、ある日、三峰山の中に、三峰
秩父の司は三峰の法師にたのみました。殿様のご病気がなほるやうに、
て、守り札をこしらへました。それから昼間は、秩父の山や谷をあるきまはつて、りつぱな薬草をさがしあつめ、それを夜の
八日めに、守り札と、調合した薬とを、秩父の司のところへとどけました。
秩父の司の喜びは、たとへやうもありませんでした。
秩父の司は、人人を呼び集めました。
それは、秩父の速といふ若者でありました。馬術にすぐれ、ことに、足が早い
秩父の速ならば、みごとこの役目をはたすであらうと、秩父の司も思ひまし
秩父の速ならば、みごとこの役目をはたすであらうと、秩父の司も思ひましたし、ほかの人人も思ひました。
秩父の速がお使ひとして、貴い二品をあづかりました。ほかにな
秩父の速がひき出した馬は、つやつやとした鹿毛のけなみもうつくしい、たくましい
まつ先にたつてゐるのは、秩父の速がのつてる鬼カゲです。少しおくれて、四頭の馬がつづき
つかれてゐます。それもむりはありません。遠い秩父のおくから、かけどほしにかけて来たのです。そしてなほ、馬
方向に目をむけながら、かけつづけます。乗つてゐる秩父の速も、汗にまみれながら、かなた、江戸の方向に目をすゑてゐ
秩父の速も、力がつきかけてゐました。鬼カゲが倒れると、地面
ふと、秩父の速はわれに返りました。杉の木によりかかつて立つてゐまし
秩父の速も、鬼カゲとおなじ方向に目をむけました。さうだ、死ん
でもなほ果さなければならない役目があるのです。秩父の速は元気をとりもどしました。鬼カゲの頸をなでながらいひました。
秩父の速は鬼カゲにとび乗りました。鬼カゲはかけだします。秩父の速は
速は鬼カゲにとび乗りました。鬼カゲはかけだします。秩父の速はもうむちゆうでした。息もつけないほどの早さで、武蔵野
殿様のやかたの前で、秩父の速は大声に呼ばはつて、門をはひり、背中にしよつてゐ
のです。それからなほ、その二品について、秩父の司からのくはしい手紙がそへてありました。
秩父の速は、みごとにその役目を果しました。そして、貴い守り札と薬の
早くうすらぎ、まもなく全快されることとなりました。秩父の速は、てあついご褒美をいただきました。
秩父の速は、大和田からこちらも、鬼カゲにのつてかけて来たつもりで
やかたの人たちにきいても、門番にきいても、秩父の速は馬に乗つて来たのではなく、ただ馬のやうに
それでも、秩父の速はなほ、鬼カゲをさがしましたけれど、やはりどこにも見つかりませ
そのうちに、秩父の司のところからいつしよに出かけて来て、途中で馬をうしなつた
秩父の速には、どうもなつとくがいきませんでした。鬼カゲに乗
そののち、秩父の速はまた、秩父のおくへ帰ることになりました。それで、大和田
そののち、秩父の速はまた、秩父のおくへ帰ることになりました。それで、大和田を通る時に、よく
秩父の速は、その石の前にひざまづいて、涙をながしました。
そして秩父の速は、この名馬の魂をなぐさめるため、馬頭観音の像を石にきざませ
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むかし、関東地方を治めてゐた殿様がありまして、江戸に住んでゐられました。
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(例)江戸
むかし、関東地方を治めてゐた殿様がありまして、江戸に住んでゐられました。その殿様が、病気にかかられて、いろいろ手当
家来たちはたいそう心配しました。ことに、江戸から遠いところにゐる家来たちは、殿様のごやうすがよくわからないので
、七日の間が待ちきれないやうな思ひでした。江戸からのたよりでは、殿様はますますわるくなられるばかりです。
だいはあぶないのです。ひと時も早く、その二品を江戸までとどけなければなりません。どうすれば、一番早くとどけられるでせうか
その集まりの席で、私が江戸へまゐりませうと申し出たものがありました。
そしてこの五人は、江戸へむかつて遠い道を、いつさんに馬をかけさせました。
ひろびろとした武蔵野を、江戸の方へむかつて、五人のさむらひをのせた五頭の馬が
てゐます。それでもなほかけつづけます。かなた、江戸の方向に目をむけながら、かけつづけます。乗つてゐる秩父の速も
つてゐる秩父の速も、汗にまみれながら、かなた、江戸の方向に目をすゑてゐます。その馬と人との、おなじ方向に
てゐるやうです。馬と人と一つになつて、江戸までかけつづけるぞと、決心してゐるやうです。
ました。そばには、鬼カゲがつつ立つて、はるか江戸の方向を見つめてゐます。
息もつけないほどの早さで、武蔵野を突つきり、江戸につき、殿様のやかたへかけつけました。
途中で馬をうしなつた四人のものが、おくれて江戸へつきました。その人たちの話では、鬼カゲはたしかに、大和田
もなつとくがいきませんでした。鬼カゲに乗つて江戸へ来たとばかりおぼえてゐるのです。
を私といつしよに果さうとの一念から、私を江戸まで乗せて行つてくれたにちがひない。鬼カゲ、私は心からお礼を