白蛾 ――近代説話―― / 豊島与志雄
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の配慮をしたことが悔いられるのでした。仏印のハノイにいた頃、或るお茶の会の席から、某夫人を誘い出して、
以外、もうお千代さんともすっかり異って見えました。ハノイの某婦人などとは全然異っていました。岸本はやたらに煙草をふかし
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彼が落着いた本郷の一隅は、もう町ではなくて完全に村落でした。四方とも広々と
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の堤防などは似寄りのものもなく、彼方の高台は広い谷中の墓地で、田舎に見られない五重塔が聳えています。
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のことを尋ねますと、彼女は突然、四日前に静岡へ移転したとの返事でした。岸本は呆然として佇みました
少し変でしてね、時々おかしいことがありましたよ。静岡へ行く少し前など、毎日、ひどくおめかしをして出かけましたが、
で、静岡の住居だけを聞いて、辞し去りました。静岡の家は、彼女の伯母に当るとかいう由でした。
たかったようでしたが、岸本は堪えられない思いで、静岡の住居だけを聞いて、辞し去りました。静岡の家は、彼女の
、酔いがさめてはまた彼女を想いました。一度は静岡への汽車の切符を買いましたが、それを裂き棄てて、代りに
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に新らしく設けられた商事会社の、本社とは名ばかりの東京の事務所でありまして、終戦の翌年の四月の末、彼が仏印
思潮や風俗の変転などは言うまでもなく、空襲による東京の変貌は想像以上のものがありました。
そのものとして楽しまれました。彼の生れ故郷が東京市でありましたならば、そしてもろもろの市街情趣が彼の幼時の生活
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には、市街電車が走っている谷間に、昔は、田端から不忍池へ流れる小川がありましたが、それはすっかり地下の暗渠と
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、ぽつりぽつり、話が進んでゆきました。――彼女は浅草で空襲に逢い、良人やその両親を失い、自分も危く死ぬところでした