帰京記 / 豊島与志雄
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大正十二年の夏、私は深瀬春一君と北海道を旅し、九月一日には函館の深瀬君の家にいた。午後
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の汽車の乗客は、みな落ちついてぼんやりしてるらしかった。宇都宮あたりから汽車は著るしく速力をゆるめ、停車時間も長くなり、軒の傾い
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船の乗客はみな興奮の色を浮べていたが、青森からの汽車の乗客は、みな落ちついてぼんやりしてるらしかった。宇都宮あたりから
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赤十字社の用件で日本に来たベルギー婦人があって、京都から北陸をまわってるうち東京に地震が起り、浦和でひっかかっていたの
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船に身を託し、次で青森駅発の地震後最初の上野行急行に乗った。汽車は三日の夕刻浦和につき、それから先
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が、それがないために、真偽とりまぜた報道がからみあって東京全市が災害の煙に包みこまれてしまうのだった。
続き、浦和に至って汽車は停止したのである。東京についての情報は函館でよりも更にあいまいを極めていた。近づく
でひっかかっていたのが憲兵隊の好意により自動車で東京入をするというのである。何故か分らないが、その自動車は駕籠町
来たベルギー婦人があって、京都から北陸をまわってるうち東京に地震が起り、浦和でひっかかっていたのが憲兵隊の好意により
三宅君のところで慰安を受けて翌日四日の朝、東京にはいる方法はないものかと、とにかく、駅近くの自動車屋にいって
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、兵士を満載した無がいの貨車が見られた。大宮からは最徐行で、街道には避難者が続き、浦和に至って汽車
が見えたりした。そして至る所物静かだった。それが、大宮になって一変した。憲兵、警官、自警団、避難民、そうした