勝浦町 横浜 北海道 喜望峰 伊東 長者町 ロンドン 青山の墓地 芝公園 東京 京橋

疎らな人家を過ぎて船板を渡した溝を越えると、勝浦町へ通ずる県道になっている。伊東は晴れた空の下に杖を振って

追っていった親戚がようやく取り戻してきた――武太郎は勝浦町の取引先へ蜜柑の売掛け代金を取りに行くとか言っていた――

、わたし、まだお話ししませんでしたかね。昨夜、横浜から法人さんがお見えになったんですの。……昨夜は遅うござんし

のやっている輸出入の商売がとんとん拍子に運んでゆくこと、横浜に近々支店を持つ計画などを語った。

一年に二、三度は会っていた。――横浜に支店を持った宝沢――妻帯した彼――直一と名づけた子供―

「北海道のほうを回り歩いていた。妹が自殺をしたので後始末をして

――二月二日。十二年前、喜望峰の波止場で、朝霧の立ち込めた穏やかな海上を大きな水禽が群れをなして水

ていない明るい海岸の道路を歩いていた。したがって喜望峰のテーブル山の景色と、現世にいない両親や伯母やイサベルのことを、

年一日、判で捺したような朝食を済ましてから、伊東は松林に囲まれた家を出た。街には出ないで、役場の

溝を越えると、勝浦町へ通ずる県道になっている。伊東は晴れた空の下に杖を振って、だれも人の通っていない

伊東はみちみち、菜の花や水仙などを摘んで丘の裾を繞りながら、遠くに部原

きたものであった。よく学校の帰りなどに宝沢が伊東を店先に待たせておいて、『魔風恋風』『はつ姿』などという

轢死した及川武太郎はお玉の実兄で、千葉県の長者町で一時は小学校の校長をやったり村長を務めたりしたことのあった男

ないが、祖先から伝わった家屋敷も人手に渡り、現在は長者町の場末にささやかな家を借りて細君と倅とが青物商を営んでいる

度目に彼女に会ったのは、それから数カ月を経たロンドンのあるウイークデーの、閑寂な朝の公園であったっけ。この奇遇は二人を

て、わたしの植えた珊瑚樹の葉擦れの音を聞きながら、青山の墓地に眠っている――

内心敬意を払っていた。伊東の家は官吏で、芝公園に住んでいた父親の出張がちな女ばかりの寂しい家に宝沢はたびたび

ある晩、芝公園の寂しい松原を抜けて一人で遠遊びに出た伊東は、宝沢のところ

若葉の匂いが寂しく染み込んでいた。彼の帰っていく東京の家には、年老いた父が病床で彼を待ち侘びていた。宝沢

で、長い学校生活を終わった伊東の数人の仲間が京橋のビヤホールで何軒目かの梯子酒をやっているときだった。酔い痴れて