ロンドン バーミンガム パリ 広東省

それは、御運のよかったことで……で、すぐロンドンへいらっしゃるでしょう。ねえ、アン」

リバプールからロンドンまでは、四百数十キロの道程があった。特別急行列車は、この間を十時間

なっていた。だから、午後七時ごろには、ロンドン着の筈であるが、今は、ドイツ機の空襲が頻繁なので、

「ロンドンへは、どういう用件でいかれますかね」

にかけないと、悪くなるという話ですから、これからロンドンへ急行するんです」

御心配でしょう。御主人の御本復を祈ります。じゃあ、ロンドンの中国大使館へは、私の方から取調べ票を送って置きますから」

“必要ならば、フランス政府も、一時ロンドンに移転するかもしれない”

ばかりのお金を握っているだけだった。とても、これでロンドンまでの切符を買うことは出来なかった。

その味気なさは、列車がロンドンに着いてから、更に深刻味を加えた。

として、彼が、掲示板の中に、パリ銀行のロンドンに移転してきた告知ポスターを見落したとしたら、彼の上には

持たせて、のっしのっしと歩いていた。彼らは、ロンドンの空一杯に打ちあげられた阻塞気球を、ひどく信頼しているのか、それ

「わしは、ロンドンに二十年も在勤しているが、ついぞ、仏天青などというおかしな名前の

彼は、すぐさま車掌に申告するとか、バーミンガムの駅で証明をとって置けばよかったのだ。だが、彼はそんな

彼のもう一つの当惑は、妻君のことだった。バーミンガムの駅で、あの女に取り縋られたときには、妻が二人出来たか

ていったのではあるまいか。そうでなければ、バーミンガムの次の駅で下りて後から遅れて来るおれの列車を、待っている

“パリ発――日本大使館附フクシ大尉は、ダンケルク方面に於いて、行方不明となりたり

ダンケルクの陥落二日前、フランス軍の負傷者等を搭載しパリに向け離陸後消息を絶ちしものなり。勇敢なる大尉及び同乗者等の安否は

（おれは旅人らしい。わが家は、きっと、遠い広東省かどこかにあるのであろう）

中国と思えば、ふと「広東省」という地名が、頭脳の中から飛び出してきた。だが、それ以上