箱根 東京 新橋

鶴一人連れて、漸く目的とする療養地に着いた。箱根へ、熱海へと言つて夫や子供と一緒によく出掛けて行つた時に

一切の事を放擲する思をした後で、子供を東京の家の方に残し、年をとつた女中のお鶴一人連れて、

居た。二階へ案内されてから、夫人は寒い東京の方に置いて来た子供の噂をして、やがて途中のことまで

蔦屋には東京から出した荷物も届いて居た。二階へ案内されてから、

たやうな気分がなさいますでせう。何ですか、東京から見ますと、御陽気からして違ひますこと。」

ので、手続万端は既にあらかた運んで置いた。夫人は東京の方で院長の診察をも受けて居た。彼女は名乗つて病院

配つて、早く横に成ることを夫人に勧めた。東京から届いた荷物の中には、軽い柔かな小蒲団もあつた。それ

「お鶴、お前はこれから東京の方へ帰つてお呉れな。」

た、夫人も寂しからうから、また子供衆でも連れて東京から訪ねて来るやうに、と言つて勧めて呉れた。

安心したといふ風で、その日の午後の汽車で東京の邸の方へ帰ることにした。

夫人はまだ若かつたが、子供は三人あつた。新橋を発つから汽車中言ひ暮して来たそれらの可愛いものからも、夫