伊豆の旅 / 島崎藤村
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馬丁は馬を止めた。吾儕はこの馬車に乘つて天城山を越すか、それともこゝで一晩泊るか、未定だつた。山上の
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あつた。大島はよく眺めて來て、島の形から三原山の噴煙まで眼前にある位だから、この婦人の風俗は吾儕の注意を
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に不似合な大きな建築物の見える處へ出て來た。修善寺だ。大抵の家の二階は戸が閉めてあつた。出歩く人々も少な
中だ。北伊豆の北伊豆らしいところは、雜踏した修善寺に見られなくて、この野趣の多い湯が島に見られる。何もか
この娘の出て行つた後で、A君が、「修善寺に比べると女中からして違ふネ。吾儕の前へ來るとビク/
島を發つた。吾儕を待つて居た馬車は、修善寺から乘せて來たのと同じで、馬丁も知つた顏だつた。天城
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別の馬車に乘つて、やがて下田を指して出發した。吾儕は椿の花の咲いて居る蔭を通
下田へ近づいた。女は烈しく勞働して居た。吾儕は車の上から
夕方に下田に着いた。町を一※りして紀念の爲に繪葉書を買つて
とA君は宿屋の二階から下田の空を眺めながら言つた。其朝は、伊豆の南端を極める爲に皆
たのは別の汽船だつた。吾儕を乘せて下田まで歸る船は未だ來なかつた。汽船宿で聞くと一時間の餘も待た
日暮に近く下田の港へ入つた。幸にA君は醉ひもしなかつた。吾儕は
下田の宿では夕飯の用意をして吾儕の歸りを待つて居た。
とは、斯うも違ふかナア。」とK君は下田の朝を眺めながら言つた。「まあ、僕の知つた限りでは、酒田
行の汽船の中にあつた。この汽船は長津呂から下田まで乘つたと同じ型だつた。大小の帆船、荷舟、小舟、舊い修繕中
「こゝの湯で、下田の宿で、湯が島の溪流があつたら、申分なしだネ。」と
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朝飯の後、伊東へ向けてこの宿を發つた。是非復た來たい。この次に來る時
伊東へ着いた。其日もA君は別に船旅に醉つたやうな樣子は
たが、入り心地の好いのは是處だ。是は伊東の宿へ來て、町の往來へ向つた二階の角の部屋で、
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をとつた。奧の方の二階から眺ると、伊豆石で建てた土藏、ナマコ壁、古風な瓦屋根などが見渡される。泥鰌を賣りに
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伊豆の旅
物に倦んで居たし、それに旅のはじめで、伊豆の土を踏むといふことがめづらしく思はれた。吾儕は互に用意
階から下田の空を眺めながら言つた。其朝は、伊豆の南端を極める爲に皆な草鞋穿で出掛けることにした。吾儕は
石室崎の白い燈臺のあるところまで行くと、そこで伊豆は盡きた。望樓もあつた。吾儕は制服を着た望樓の
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見ると斯の廣い湯槽の周圍へ集る人々は、いづれも東京や横濱あたりで出逢さうな人達ばかりである。男女の浴客は多勢出
こゝの女中も矢張東京横濱方面から來て居るものが多いといふ。夕飯には、吸物、刺身
吾儕はこの二階で東京に居る人のことや、未だ互に若かつた時のことや、亡く
、A君はこゝの繪葉書を買つて來た。「東京へ土産にするやうなものは何物も無かつた。」と言つて、
それは翌日東京へ歸るといふ前の晩だつた。吾儕は烈しい、しかしながら樂しい