軽井沢 鎌倉 丸の内 宮城 福井市 高崎 福井 東京 日比谷 大宮 上野 神田 浅草 日暮里 赤羽 田端 日本橋 湘南 京橋

、警備している。福井を出発する時、前日頃、軽井沢で汽車爆破を企た暴徒が数十名捕えられ、数人は逃げたと云う

五日の暁方四時少し過ぎ列車が丁度軽井沢から二つ手前の駅に着く前、一般の神経過敏をよく現した一つ

は、確に十二時十五分過頃始ったと云う。鎌倉から来た人々もその刻限に一致した。其故、私の見た時計

病気で、恢復期に向った為め、小田原か大磯、或は鎌倉に行っていたかもしれない。其等の地方は、この号外によれ

建物の中にい、危うく死とすれ違った。私は、鎌倉で、親密な叔母と一人の従弟が圧死したことを知った。まさかと

は、忽ち父の上に飛んだ。父の事務所は、丸の内の仲通りにある。時刻が時刻だから多忙な彼は、どんな処にいて

地震の三十分前、倒壊して多くの人を殺した丸の内の或る建物の中にい、危うく死とすれ違った。私は、鎌倉で、

、三越、白木屋、東京駅、帝国大学その他重要な建物全焼、宮城さえ今猶お燃えつつある。丸の内、海上ビルディング内だけでも死者数万人

に集って雑談に耽っていると八時頃、所用で福井市に出かけていた家兄が、遽しい様子で帰って来た。私共の呑気

午後から良人は福井市に出、大宮までの切符と持って行くべき食糧の鑵詰類を買い入れて来

で背負う振り分けの荷に作って、福井を出発した。福井市の彼方此方では、当局者の所謂流言蜚語が、実に熾んで、血腥い風が

高崎から、段々時間が不正確になり、遅延し始めた。軍隊の輸送、避難民の

ていようとは夢想するどころではなかった。何にしろ福井辺では七月の下旬に雨が降ったきり、九月一日まで、

、私共は四日の午後に、何がなくとも、福井を出発する準備をしていた。米原から東京駅までの寝台券も取って

、ただ食糧だけを二人で背負う振り分けの荷に作って、福井を出発した。福井市の彼方此方では、当局者の所謂流言蜚語が、実

ちらつき手に手に提灯をかざして、警備している。福井を出発する時、前日頃、軽井沢で汽車爆破を企た暴徒が数十名

、到底足を下せたものではない。田舎の階子段は東京のと違い、ただ踏板をかけてあるばかりなので、此処に下そうと

の見た時計に大した狂いのなかったことを信ずるなら、東京に近く、震源地に近い湘南地方の方が逆に遅れて、強く感じた

なって、意外に興味ある話題になった、何故なら、東京であの大震は十一時五十八分に起ったと認められている。ところが

も、近年にない強震だと愕いた。けれども、真逆東京にあれ程のことが起っていようとは夢想するどころではなかった。

「東京はえらいこっちゃ」

丸の内、海上ビルディング内だけでも死者数万人の見込み、東京市三分の二は全滅、加えて〔四字伏字〕、〔五字伏字

。号外によれば、一日の十二時二分前、東京及び湘南地方に大地震があり、多くの家屋が倒壊すると同時に、四十八

始めた。この時初めて、私共は、前日の地震が東京からの余波であったことを知った。号外によれば、一日の

すれば、どんなに軽く見積っても、昨日の十二時以後東京はその非常手段を必要とするだけ険悪な擾乱にあることだけは確だ

一大事である。真暗な東京を考えるだけで、ふだんの東京を知っているものは心は怯える。

が止ったと云う丈でも一大事である。真暗な東京を考えるだけで、ふだんの東京を知っているものは心は怯える。

仕合わせに有難くは思うが、万事が落付くまで、生れた東京の苦しみを余処にのんべんだらりとしてはいたくない。大丈夫だろうとは思い

三日にそれ等の準備をし、予定通り四日に東京に向うことに定めた。出発までは、出来るだけ落付いて、自分等の

底を覗き桶で見るように、私にわかった。遙かな東京の渾沌、燼灰、死のうとする人々の呻きの間から、私は、何

けれども、家の安否を気遣う人々は、東京から来た列車が近くに止ると、声の届くかぎり、先の模様を

は危険極ると云うのに、列車は延着する一方で、東京を目前に見ながら日が暮てしまったので、皆の心配は、

罹災者が、焼跡始末に出て来る為、一日以来の東京の惨状は、口伝えに広まった。実に、想像以上の話だ。天災

何処に何があったのかまるで判らない。災害前の東京の様子は、頭の中にはっきり、場所によっては看板の色まで

種々の点から、今東京に居遺る大多数は希望を持った熱心に励まされて働いているが、

結びつけられ兵隊に剣付鉄砲で刺殺されたと云う、日比谷の焼打ちの時か何かの風聞を小耳に挟んで以来、戒厳令と云う

午後から良人は福井市に出、大宮までの切符と持って行くべき食糧の鑵詰類を買い入れて来た。役場

川口、赤羽間の鉄橋を通過した。その日から、大宮までであった終点が、幸い日暮里までのびたのであった。厳しい警戒

、又、押し押され、おちおち佇んでもいられない。上野行の急行に乗込む時は、人間が夢中になって振り搾る腕力がどんな

「上野は？」

「神田。」

も云えない寥しい思いをした。自分の見なれた神田、京橋、日本橋の目貫きの町筋も、ああ一面の焼野原となって

「浅草は何処も遺りませんか？」

た。その日から、大宮までであった終点が、幸い日暮里までのびたのであった。厳しい警戒の間を事なく家につき、

田端まで来た。私共の列車が、始めて川口、赤羽間の鉄橋を通過した。その日から、大宮までであった終点が

着くべき列車は十二時間延着で、午後九時過ぎ、やっと田端まで来た。私共の列車が、始めて川口、赤羽間の鉄橋を

しい思いをした。自分の見なれた神田、京橋、日本橋の目貫きの町筋も、ああ一面の焼野原となっては、何処に

のなかったことを信ずるなら、東京に近く、震源地に近い湘南地方の方が逆に遅れて、強く感じたと云うことになるので

によれば、一日の十二時二分前、東京及び湘南地方に大地震があり、多くの家屋が倒壊すると同時に、四十八箇所から

ない寥しい思いをした。自分の見なれた神田、京橋、日本橋の目貫きの町筋も、ああ一面の焼野原となっては、