船 / 島崎藤村
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山本さんが家を出て朝鮮から満洲の方へ行って了ったのは、丁度彼が二十五の年だ。二度目
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た。凍った土ばかり眺めていたお新が、熱海か伊東あたりの温暖い土地へ、もし行かれるなら行きたいと言っていることは、
まで連れて行ったが、駄目だった。そこで今度は伊東の方へ誘った。
このお新の心やすだては、伊東へ着いて艀から陸へ上った時も変らなかった。伊勢詣の道連の
同じような日を送って、四日目の朝には伊東から帰ることに成った。もし時が許すなら、山本さんは熱海、伊東ばかり
に成った。もし時が許すなら、山本さんは熱海、伊東ばかりでなく、もっと他の方へ、下田の港へ、それこそ大島までも
伊東の宿で、山本さんは土地の話を聞いた。女を連れて石廊崎
船が伊東の海岸を離れる頃は、大島が幽かに見えた。その日は、往の
へ近づいた。船旅を終る頃には、お新は熱海や伊東の話を持って、東京に居るお牧の方へ早く帰りたいという様子
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さんは熱海、伊東ばかりでなく、もっと他の方へ、下田の港へ、それこそ大島までも、お新を連れ廻りたいと思ったが、
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茶代までうんと奮発した。汽船の出る時が来た。伊豆の港々へ寄って行く船だ。二人は旅舎の前の崖を下りて、
「どうでした、伊豆の旅は」とお牧は何度も同じことを兄に尋ねた。
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仏蘭西あたりへ長く行って来た人は何かにつけて巴里を思出すように、山本さんは又こうして町を歩いていても
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、寒い方から鼻の療治に出掛けるとしてあった。仙台から一里ばかり手前にある岩沼というところが山本さんの郷里だ。この
黒い理窟好な異母妹とは大の仲好だった。仙台の方にあの娘達の入る学校も無いではないが、二人は東京
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郷里から妹が上京するという手紙を受取ったので、神田の旅舎で待受けていた。唯一人の妹がいよいよ着くという前の日に
ちゃん」なぞと笑われそうな気がして来た。神田の宿へ戻って長く忘れずにいるあの旧い接吻を考えた時は、
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心地で歩いた。あだかも支那からやって来て、ポツンと東京の町を歩いている観光の客のように。
二月末のことで、町々の空気は薄暗い。長いこと東京に居なかった山本さんは、新式な店の飾り窓の前などを通りながら
東京の町中の四季を語っているような水菓子屋の店頭には、冬を
今度の帰朝で彼を驚かしたのは、東京に居る友人の遠く成って了ったことだ。最早死んだ人もある。
あの娘達の入る学校も無いではないが、二人は東京へ出て、同じ寄宿舎から同じ学校へ通った。丁度山本さんは朝鮮から
今度の東京の旅舎では、山本さんは実の妹ばかりを待受けているのでは
た彼地へ帰ります……こんなにして、東京で貴方がたに逢えるとは思わなかった……」
悪いお牧が手術を受けに入院する頃は、お新も東京にある親戚の家へ行った。
にした人達で、この世は満たされているだろう。東京から稲毛あたりの海岸へ遊びに出掛けるのに、非常にオックウに考えている
頃には、お新は熱海や伊東の話を持って、東京に居るお牧の方へ早く帰りたいという様子をした。
静止していなかった。支那土産の縮緬の他に、東京で買った物まで添えて、隣座敷へ行って見ると、お新だけ居
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。帽子を冠って、旅の鞄を提げて、旅舎から小川町の停留場へと急いだ。
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窓に輝き初めた。枯々とした並木を隔てて、銀座の町々は極く静かに廻転するように見えた。
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約束の時間より早く、山本さんは新橋の停車場に着いた。汽車に乗込もうとする客だの、見送りに来た
打ちつけた。それほど、身体を支えることが出来なかった。新橋へ入ったのは未だ日の暮れない頃であった。何となく頭
新橋行の二等室の内に腰掛けてからも、二人はあまり話す気が
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た人達で、この世は満たされているだろう。東京から稲毛あたりの海岸へ遊びに出掛けるのに、非常にオックウに考えている人すら
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上野まで妹達を見送って、復た引返して来た時は、山本さんは