防雪林 / 小林多喜二
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角地の娘が婿をとつたとか、石屋の旦那が樺太へ行つてるとか……そんなことが、ボツ/\、切れさうになつたり
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は獨言をすると、今度はしつかりした足取りで、暗い石狩平野の雪道を歩き出した。
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北海道に捧ぐ
なつた。もう雪だべ。嫌だな、これからの北海道つて! 穴さ入つた熊みたいによ。半年以上もひと足だつて出られ
、源吉の父親が内地からはる/″\この熊の出る北海道に渡つて來て以來、身體を土の上にえびのやうにまげて働き
、立毛は押へられた、土地はとりあげられた。「北海道に行つたら」さう思つて、追ひ立てられて、然し、大きな夢をもつて
、大きな夢をもつて、彼等は「熊が出る」北海道にやつてきた。津輕海峽を渡つて、北へ、北へとやつ
北へとやつてきた。親子で行李を背負ひながら、北海道の飛んでもない、プラツトフオームもない、吹きツさらしの停車場で降ろされると、
かういふ百姓にとつては、たとへ北海道に二十年ゐたとしても、三十年ゐたとしても、内地
初め、「國」を出るときには、百姓たちは、北海道へ行つたら、一働きして、うんと金を作つて、國へもど
もつて歸ることを心の何處かで思つてゐた。北海道の百姓は皆平氣でさうだつた。
なんでも源吉の父親と母親が、初めて北海道に來て、雪の野ツ原を歩かせられたとき、(源吉はその
頃では死にに行くといふのと大したちがひのなかつた北海道にやつて來、何處へ行つていゝか分らないやうな雪の廣野を吹雪か
にじみ入つて行つた。それから、笑談のやうに、「北海道の宗五郎」といふ奴が、何處かから一人位は出たつて惡くないだらうさ
に、手はずがきめられてしまつた。校長先生の「北海道の宗五郎」が時機を得て、三人も、その大きな役目を引き受けるものが
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「わしも札幌さ行きてえからつて、云つてやれば、來るどこでねえつて――
」と、前に言葉をかけた。勝は、芳が札幌へ行く前の、芳と源吉の關係を知つてゐた。
「札幌の街ば見てから、夢ばツかし見てるべ。」
ときを思ひ出した。自分の想つてゐたお芳が、札幌へ無斷で行つてしまつた晩だつたことを思つた。源吉は、その
耳もかさずにじつとした。源吉は、お芳が札幌へ行つたと聞かされたとき、本當のところ、別な意味からも「淋しく
――貴女が札幌に出たがつてゐることは、自分のその頃のことから考へてみて
源吉の母親は、お文が札幌へお祭りの夜逃げて行つてから、何處か弱つてきた。何か仕事
源が駄目でねえ。行きたがらねえんだもの。――札幌ばおつかながつてるんだべよ。」
に、先生の顏を見た。そのことから、先生が札幌にゐたときの話をした。そしてこんなことを云つた。――若し
源吉が、集會の途中、醉拂つて歸つてきた。札幌に行つてゐる勝から、手紙が來てゐた。
――札幌にも雪が降つた。やつぱり寒い。俺達には冬が一番堪へる。
君の妹も、札幌に出てきたことを愚痴つてゐる、俺は君の妹を女給に
――お芳は札幌にゐたうちに、ある金持の北大の學生と關係した。そしてお芳
「よく聞いてみれば、お芳ア、そんなに札幌さ行ぎたい、行ぎたいつて、行つたんでねえツてなア。」
べしよ。――お芳の弟云つてたけど、毎日札幌さ手紙ば出してるどよ。んから、あの郵便持ちがくる頃に、いつ
事になつて、表へ出された。幹部のものは札幌へ送られることになつたのでのこつた。
を責めてゐる。――そして、最後に、自分は、札幌の大學生には、ツバをひつかけて死ぬ。と書いてあつた。
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きれの布も、百姓にはうつかり買へなかつた。越中富山の藥屋も小さい引出の澤山ついた桐の藥箱を背負つてやつてきた