ある職工の手記 / 宮地嘉六
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佐世保の造船所へ行つて職工になる決心をしたのは十三の秋だつた。
私はその間、彼の家を毎晩のやうに訪ねて佐世保の造船所の有様を彼に聞かせて貰つた。どんなに重い鉄でも
私は思つた。今佐世保へ行つたら父も少しは私のことを心配するであらうと。自分を余計者
等は少しは思ひ知るであらう。と思つた。ならうことなら佐世保よりもつと遠い旅の空へ行つて父を驚かせてやりたいと思つた
その年の十月末に私は父に無断で佐世保へ出奔した。佐賀から佐世保まで二十里位であつたがその時分汽車はやつ
に私は父に無断で佐世保へ出奔した。佐賀から佐世保まで二十里位であつたがその時分汽車はやつと武雄まで通じてゐた。
「佐世保へ。」私は多く答へなかつた。叔父の方でもそれきり何にも
「お爺さん、一寸お尋ね申します、佐世保の方には此の道を行つて好えのでせうか。」私は
もねえぢや、早岐と云ふ所に着きますぢや、早岐から佐世保までは三里ありますぢや。わしも佐世保へ行きますぢやで、一緒にござら
ぢや、早岐から佐世保までは三里ありますぢや。わしも佐世保へ行きますぢやで、一緒にござらしやれ。」と爺さんはやさしく云つて
「お前さまあ一人で佐世保へ行きなさるのかな。親ご達は佐世保へをんなさるのかな。」
さまあ一人で佐世保へ行きなさるのかな。親ご達は佐世保へをんなさるのかな。」とつれ合ひの婆さんは云つた。
「いんえ、家は佐賀にあるんですが、私だけ佐世保へ行くんです佐世保へ行つて働くんです。」
は佐賀にあるんですが、私だけ佐世保へ行くんです佐世保へ行つて働くんです。」
多少知つてゐた。三年前から妻子をつれて佐世保へ出稼ぎに来てゐたのである。私は此の人に出逢つた
私には何より仕合せだつた。善作さんの家は佐世保の街はづれの、所々に怪しい小料理屋などのある場末であつた。町の
」権八は私に云つた。彼は三四年も此の佐世保の土地へ居馴れてゐるので何かとくはしかつた。唯の水兵と
た日は妙に父のことが案じられた。私は佐世保へ来てから一度父には手紙を出した。善作さんの家に厄介に
は父にうんと心配させてやらうと企てて此の佐世保へ家出して来ながら、父を想ふことに於ては他の多くの子供に
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其の翌年、私は或る同志に加はる為めに関西へ飛び出した。それからのことは、あらためて他日発表するであらう。
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八里の道はかなり長かつた。陶器の産地である有田へ着いたのは午頃だつた。谷川のへりの所々に石を搗き砕く水車
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の手伝ひをしてゐた。その頃私の家は佐賀ステーション前に宿屋を営んでゐたのである。家業柄私は家に
つた。父は私を引きとつて間もなく故郷の佐賀に帰つてステーション前で宿屋を始めたのだ。
て黒セルの上衣を着込んで、鳥打帽を冠つて久しぶりに佐賀に帰つて来た。或る日手荷物を提げて汽車から降りて来る姿を
月末に私は父に無断で佐世保へ出奔した。佐賀から佐世保まで二十里位であつたがその時分汽車はやつと武雄まで通じて
してくれるに違ひない。」と私は曩に久しぶりで佐賀へ青服を着て帰つて来た友達をも頼みにしてゐた。
「いんえ、家は佐賀にあるんですが、私だけ佐世保へ行くんです佐世保へ行つて働くん
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に異ひはないとか、服の左腕についてゐる山形は善行証であるとか、一等兵曹の直ぐ上は上等兵曹、それ
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「長崎まで用があつて行つたから、ついでにやつて来たんだよ。
へ行つた。歩きながらぼつ/\話した。父は長崎の旅館で泥棒に逢つたことなどを話した。
してゐる間に私には読めたのであるが、長崎へ行つたのは別に所用があつたのではなく、何事か継母